Riches have wings｜リアクション

Riches have wings

●さらに旧市街にて

　自転車のライトがなにかを探している女性を照らし出し、宮祀智瑜は自転車を止めて声をかけた。
　珍しく遅くなった配達の帰りだった。
「祥子さん？」
「あら、智瑜ちゃん？」
　栗色の髪によく似合う、くるんとカールした髪の毛。
　おっとりとした性格が滲んだ佇まい。
　見れば見るほど見間違いようがないと思った。
　甘祥子は宮祀青果店の常連客なのだ。
　息子の喜好とも智瑜は顔見知り。というより、おつかいで喜好がやってくる方が多い。
　そんな彼に時々果物をおまけしたりしているうちに、彼と祥子の家庭やらろっこんやらの事情を知っていった。
「こんな時間にどうしたんですか？」
　智瑜が尋ねると、
「喜好が家を飛び出してしまって……」
「え！」
　お金に羽が生えたことも含め話を丁寧に聞いていく。意外にも祥子は落ち着いていて、大事なことはひと通り話してくれた。
　しっかりとすべてを聞き終えて、智瑜は力強く祥子の手をとった。
「私も一緒に探します！」
　力強いのは手だけではない。
「必ず見つかりますよ」
　喜好君もお金も。
　智瑜のやさしい強さは気丈に振る舞う祥子に響いたのだろうか。
「智瑜ちゃん、ありがとうね」
　見た目では、大きな変化はなく、祥子は穏やかに微笑むだけだった。
（私もお母さんにいっぱい心配かけちゃったな）
　懐かしんで智瑜は目を細める。
　智瑜の母は、幼いころ他界した。よく覚えていないけれど、けれど祥子のようにやさしい笑顔をしていたようの思う。
「Bonsoir.喜好君のお母さん」
　浮世離れした姿が夜道に浮かぶ。