Riches have wings｜リアクション

Riches have wings

●居酒屋にて

　昔ながらの瓦屋根に月明かりが落ちる。
　近代的な香り漂うシーサイドタウンとは違い、旧市街を照らす明かりはほのかなものだったが、酒呑みたちの陽気はどこでも同じだった。
　旧市街の一角を担う大衆的な居酒屋も例外ではない。
「今日は、私の奢り。皆さん楽しんでいってね～！」
　真っ白な肌を紅潮させて、細身の女が声高に宣言した。
　彼女の号令に対し「おおぉ！」と歓喜の声が上がり、居酒屋の中を熱気が渦巻いた。
　そんなやんややんやの大宴会を一瞥して、女川智火は水割りを煽る。
「……んーなんか騒がしいね」
　智火のひとりごとは喧騒にかき消され、誰の耳に届くこともない。
　別に誰かに聞いてほしいわけではなかったのだから気にすることはないのだけれど。
「奢りねぇ」　
　奢り、というものにも智火は興味はなかった。
　お酒は自分のお金で飲むから美味しいのだから。
　ただ、もともとひとり酒を好む性質で、騒がしすぎるのは好きではないのだ。
　とはいえ他人の話に耳を傾けそれを肴にすることが、ひとり酒の醍醐味だと思っているので、不快というわけでもなかった。
　カランとグラスの氷が音を立てて溶けていく。
「おーい！　楽しそうじゃねえかねえちゃん。オッサンも混ぜろ！」
　言うほどオッサンには見えない男が、その女の輪に入っていった。
　智火の目には同じ年くらいに見える。
（……つまり私もオバサンってことなのかしら）
　その言葉に傷つくわけではなかったけれど、最近酔いが回るのが早くなったなということを思い出し、なんとなく気が重くなった。

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