Riches have wings｜リアクション

Riches have wings

●毒島家にて

　毒島イヴは今日は夕食の片付けをしていたときに『旧市街でお金に羽が生えて――』と声が聞こえてきた。
　つまりこの近辺での事件についてのこと。
　もしかすると甘祥子（かん・しょうこ）も巻き込まれているかもしれない。
　イヴは居てもたっても居られず、祥子の家に電話をした。
　一度、二度、三度と鳴り続けるコール。
　イヴはしぶしぶ受話器を置いた。
　こんなとき祥子が携帯電話を持っていないことが悔やまれる。
　けれど息子の喜好（きよし）も電話に出ないことを考えると、やはり巻き込まれたと考えるのが妥当だった。
　喜好はイヴの夫・毒島柘榴が営む薬局「アネモネ」と荒井景貴が営む洋菓子店『Laton』でお手伝いをしている。
　蜜に連絡を取り、いつどちらで手伝いをしているかはお互いで把握しており、今日は祥子が早上がりだからという理由でどちらの手伝いも休みだったのだ。
　それなのに喜好も祥子も家に居ない。
「どうしたんだ？」
　柘榴がイヴの様子を不審に思って声をかけてくれた。
「……柘榴。あなたもテオの声、聞いたわよね。多分、喜好と祥子が巻き込まれたの」
　イヴの声に動揺が滲む。
「……そうか」
　柘榴はそれをすべて包み込むような深い声で頷いた。
　行ってもいいわよね？　構わないぞ。
　そんな会話は不要だった。
　それからは無言で準備を進め、娘に出かける旨を伝えてからふたり揃って家を出る。
「ちなみに浮気はNO～なんだからネ？」
　口調を作って満面の笑みを夫に向ける。
　なんとなく女の勘が騒ぐのだ。
「ちげぇよ、俺が愛してるのはイヴだけだって！」
　案の定、柘榴は慌てて否定して、喧嘩混じりで夜の闇に消えていった。
　慌てるのは、後ろ暗い証ネ。

　男に振られた女が原因なら、自分のろっこんを使えば解決する。
　柘榴はそう思っていた。
　彼のろっこん。
　それは食物を咥えて手刀を当てることにより、ろっこん効果を無効化するというもの。
　手刀、それが浮気になるのは毒島家の殺し愛ゆえ。
「だからお前だけだって言ってるだろ」
　そう言いながらイヴに鋭く拳を振るう。
「……ンフ、愛しの旦那様。もっとイヴを愛して欲しいデース」
　なので、言葉よりも拳のほうが愛は伝わるのであった。