寝子島★トマト祭り｜リアクション

寝子島★トマト祭り

　一方、こちらは居間。男子更衣室として、使われている。
「なんか、服装の男子の扱いがヒドイな……」
　Ｔシャツにジャージという無難な服に着替えながら、御剣刀はひとりごちた。
　とは言え、負けず嫌いの彼の事。
「トマトをぶつけ合いながら、戦意喪失せずに最後まで立っていればいいんだよな？　……戦意喪失？　有り得ん！　こういう勝負事には負けたくない、絶対に勝つ！」
　パンと頬を叩いた刀の後ろで、その気合を凌駕する勢いで声を張るのは、全身に鎧のような筋肉を纏った尾鎌蛇那伊。

「葉っぱ一枚？　裸ネクタイ？　ナマヌルイ！　男は黙ってＺＥＮＲＡ！！」

　チッチと指を振った蛇那伊は、次の瞬間、着ていた服を躊躇なく脱ぎ捨てた。
「ちょ、待て！　尾鎌、早まるなっ！！」
　慌てて顔を背ける刀だったが、「なーんてね」というおどけた声に恐る恐る振り返った。
　そこに居た蛇那伊は、赤いブーメランパンツ姿で見事な筋肉とポーズも相まって、ルーシーとは別の方向の……いわゆる男の美を体現していた。
「びっくりさせんなよ！」
「フフン、刀ちゃんも穿いてみたら？　きっと似あうわよ」
「いや……遠慮する」
「あァら、せっかくナイスバディなのに、勿体無い。まあいいわ、競技であろうと戦いには違いなし。負けないわよ？」
　蛇那伊の宣戦布告に、刀は心機一転、唇を引き結んだ。
「望むところだ！」
　絶対に負けない！　互いの視線が交わる先で、熱い火花を散らす。

「おー、お二人さん熱いな！」
　体育科の上級生・冴木竜司も、蛇那伊に対抗しているわけではないが、戸惑う事無くクールなグレーのジャケットや、均整の取れた体にぴったりとしたＶネックシャツと、ボトムを脱ぎ捨てた。
「今日は結構いい服着てきてるから、汚れない恰好だぜ」
　サムズアップする竜司の腰周りを派手に彩るのは、はためく赤い布。
「つまり、赤褌一択だな！　見てくれよ、この筋肉と赤褌姿……すごくワイルドだろ？」
「キメキメね、いいじゃない？　オトコらしいわ」
　ちょっとついていけないものを感じている刀をよそに、蛇那伊と竜司は盛り上がっている。
「むぅ、俺も衣装凝ったら良かったかな……いや、戦いはスタイルじゃない。最後に勝利するのは、俺だ！」
「へへっ！　じゃあ、いっちょ暴れてやろうぜ！」
　それぞれに腕っ節には自信がある彼等も、悠然と更衣室を出た。

「……」
　出て行った者達を目で追った榊彩斗もまた、トマト競技の選手だ。
　トマトで汚れてもいいように、見ようによってはショートパンツにも見える水着姿になっている。
　頭の上には、トマトの果汁が目に入らないようにゴーグルを。

「ふむぅ……トマトをぶつけて、最後まで立ってた人が勝ちってワケかぁ。んー、という事はめっちゃ大量のトマトのぶつけ合いになるから、トマト溜まりがいっぱいできそうだよねぃ」
　彩斗と共闘する呉井陽太も、同じく水着姿だ。
　ただしこちらは、上からもう着なくなったＴシャツを着て、転倒防士用にスニーカーを履く予定だ。
　トレードマークの眼鏡も、今日はコンタクト。そうして彩斗とお揃いのゴーグルを。
「おそろいだな……よーた……」
「トマトが顔面にぶつかったら、目がぁぁぁってなりそうだからねぃ……しかし、変わったお揃いだわー」
　軽い調子で笑いながら、陽太は肩をすくめてみせた。
　桜花寮でルームメイトでもある二人は、自然に共闘する流れになっていた。

「よーた」
「うん？」
「最後まで、残ったその時は……負けないぞ？」
　覚悟して、と線の細い友人が宣戦布告した。
「オレも負けたくないし、受けて立つよぅ♪」
　口調はいつものように、飄々としている。けれども陽太の目は決して笑ってはいなかった。