寝子島★トマト祭り｜リアクション

寝子島★トマト祭り

●もりもり準備

　突然のトマト祭りの知らせに、島民は意外と良い反応を示した。

　旧市街とシーサイドタウンの中間に建つ花屋 Hermit Flower Gardenの店長、リリ・ハーミットも、不要になったダンボールなどを貰いに訪れた人々に祭りの噂を聞いて、青い双眸を細めた。
「へぇ、トマト祭りかー。楽しそうだねぇ、君もそう思わない？」
　小さな花をつけたサボテンに問い掛けて、にこりと微笑みかける。
「きっと皆の笑顔の花が、たくさん咲くんだろうなぁ……」

　寝子高の裏手にひっそりと建つ、猫鳴館の生徒後木真央のバイタリティと高いモチベーションは、いつもながら脱帽ものであった。

「当日までにやること山積みなのだ真央ちゃん負けないのだ！」
　ようやく息してる感じの年代物の扇風機の追い風に乗って、すわりの悪いちゃぶ台に向かう。
　部活をサボって仕上げるのは、前面で「トマティーナ＼(^o^)／」の文字が主張するＴシャツ。
　そして「猫鳴館野菜販売」と書かれた、襷（たすき）である。

　……うん、ごめん。
　アクション最初見た時、「褌（ふんどし）」と空目して、このコは何て大胆な事をっ！　……って、ちょっと思いました。

「順調に進んでるな、後木。いつも率先して色々やってくれるから、安心して任せられるよ」
「真央ちゃん半農半漁のおうちの子だから作ったもの高く買い上げて貰う機会を増やしたいのだ島おこしなのだ♪」
　油性ペンを握り締めて、黙々と作業する真央に声を掛けた邪衣士の手には、土で汚れた軍手が嵌められている。猫鳴館の裏庭菜園で育てている、野菜の世話をしてきたのだ。
　熊の毛皮を被ったこの少年は、猫鳴館の自治会長だ。
　真央の向かいに座って、一息つく士に真央は麦茶を注いだ。
「士ちゃんも暑い中お疲れ様なのだ♪　真央ちゃんあとでダンボールとか貰いに商店街にお出かけするのだ士ちゃんも一緒に来るのだ？」
「ああ、ありがとう。そうするとしよう、猫鳴館のイメージアップは自治会長の使命だからな」
　元々は欠食児童達の栄養の足しにと作られた裏庭菜園であったが、存続が危ぶまれる猫鳴館に住まうものとしては、こうした近隣への「猫鳴館は生徒達の自治で立派に運営されてますよＰＲ」の機会を見逃す術はない。
「猫鳴館の菜園で採れた野菜、売れるといいな……猫鳴館に対する偏見を減らしていきたいものだ」

　真央の作業がひと段落した頃、二人は連れ立って参道商店街に出かけた。
「買ってくれた人用のビニール袋にお釣りも準備しなくちゃなのだ野菜の値段を決めたら展示箱に記入するのだ計算機とボールペンと売上記入台帳と代金箱準備するのだダンボールは嵩張るから最後にお店で貰ってくるのだたくさんたくさん必要になるから士ちゃんにも運ぶの手伝って欲しいのだ♪」
　代金は取りあえず真央ちゃんが立て替えるから、後で清算して売り上げから……そこまで話して、にぱっと振り返った真央の表情が消えた。

「士ちゃーん、どこ行ったのだー！！？」

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