巨猫さま、襲来！｜リアクション

巨猫さま、襲来！

　そして同じ頃、綾辻綾花も大きな黒い瞳を輝かせていた。
（可愛いです、普通のお猫様も可愛いですが、大きなお猫様もこれはこれで……）
　猫メモに即座に状況を書き記す綾花。
　こんなに大きな猫が、果たして猫メモに書ききれるかどうか。
　まぁ、全身図を原寸大で描くわけではないので問題ないだろう。
　問題は、やはり周囲に被害が出ないかどうか。
（犬や鳥など、他の動物は大きくなってないみたいです）
　綾花は周囲を丁寧に見渡すが、猫以外の動物は特に巨大化の兆しがない。
　電信柱の電線に仲良く並ぶ雀たちも、お散歩している犬たちも。
　みんな通常サイズだ。
　もっとも、電線の雀たちが巨大化したら電線がぶちきれて大惨事になりそうだが。
（数が多いので、対象に触れると大きくなるろっこんではなく、対象人物の半径何メートルにいる猫を大きくするろっこん、とかでしょうか？）
　思いつくのはやはり神魂やろっこんの影響なのだが、どんなろっこんがこの現象を起こしているのかはわからない。
（巨猫様は３匹、他には、かなり大きめのお猫様と、ちょっと大きめのお猫様と、だいぶ大きめのお猫様と……）
　綾花はお気に入りのお猫様画像を待ち受けにしている携帯に、地図を表示させる。
　そして周囲の猫の大きさを、地図に一匹一匹丁寧に印をつけていく。
　こうする事で、中心を特定できないか、原因を調べれないか。
　なんとなくだが、駅前の自販機を中心に三匹の巨猫様、そしてその周囲を大きなお猫様たちが取り巻いているように感じる。
（でもお猫様は移動しますし）
　銅像と違い、お猫様は生き物。
　巨猫様はいまのところ歩き回ってはいないのだが、それ以外の大きなお猫様たちは自由に歩き回っている。
　中心地点を特定するのは困難だった。
（ねこったーはどうでしょう？）
　携帯に指を走らせて、綾花はねこったーを開く。
　ねこったーには、いままさに寝子島駅の巨猫様についての情報で溢れていた。

　―――　なぁなぁ、寝子島駅が凄いらしいぜ！
　―――　巨大猫がいるのですっ、イベントらしいですよっ
　―――　……動物園状態……激しいね……
　―――　俺は一匹連れて帰りたい！
　―――　サンマさんも出現！　踊ってたぜ！

　つぎつぎと呟きが溢れているが、原因を解明したものはいないようで。
（なかなか原因は分からないようですね。あっ）
　はっとして、綾花は猫メモを再び取り出す。
　いつ原因が解明されるのか、いつこの現象が終わるのか。
　わからないいま、もしかしたらもうすぐ終わってしまうかもしれないのだ。
　それはそれで被害が出る前でいいことなのだが、猫メモがまだかき終わっていない！
　そしてそして、もふってもいないのだ。
　もふらないと。
　無類の猫好きとして、綾花は怯える事無く巨猫様によりそう。
　頬に触れる猫独特の毛の柔らかさはそのままで、身体だけが大きくなったことがよく分かる。
（巨虎猫、体長約２ｍ、白とビスケットカラーの縞々模様、肉球の色は両前足はピンク、右後ろ足はピンクと黒、左後ろ足が黒、尻尾は短め）
　書き書き書き。
　綾花は巨猫様に擦り寄りながら、きっちりメモを取る。
「あら？」
　すりっ。
　巨猫様が、綾花に擦り寄った。
（懐いてくれているのかな？）
　巨猫様にも、自分達を誰が好きでいてくれるのかわかるのだろう。
（元に戻ったら、ちょっと名残惜しいですね）
　きっと、そのうち元に戻ってしまうのだろうけれど。
　お猫様は、大きくなっても可愛いから。
　綾花は今の時間を大事にかみ締めた。