巨猫さま、襲来！｜リアクション

巨猫さま、襲来！

　巨猫さまの側に、一匹のサンマさんがいた。
　通常の秋刀魚の数倍、人間大のサンマさんだ。
　猫だけでなく、秋刀魚まで巨大化したのか？
　否、秋刀魚の着ぐるみをきたサンマさん姿な刀だ。
（速攻で借りれてよかったぜ）
　全力で加速し、さらに秋刀魚の着ぐるみを着ている刀は、もう、汗だくだった。
　けれど、猫達が不幸な目に合う未来を回避できるのなら、お安いもの。
　刀がふりふりと手を振れば、周囲の人達は巨猫さまもイベントなのだと納得しだす。
「やはり、皆思うことは同じじゃの」
　そんな刀の隣に、駒鳥が並ぶ。
　その手には、なにやら手作り感満載のポスター。
『みんなの愛で、すくすく大きくなりました！　もふもふ大歓迎！　優しくなでて欲しいのにゃ』
　そんなことが書かれている。
　つまり、刀も駒鳥も、この巨猫様騒動が異常事態だと周囲にばれぬように、イベントとして押し切るつもりなのだ。
　駒鳥は鞄からガムテープを取り出すと、ポスターを目立つ位置にぺたぺたと貼り付ける。
　そうすると、より一層イベント風味が際立った。
　駒鳥が刀の耳元に口を寄せ、囁く。
「お主、その着ぐるみは運動に支障はないかの」
「あぁ。特に支障はないぜ」
　くるくると軽く腕を回す刀。
「ふむ。ならば元気に飛び跳ねながら、サンマさんらしく巨猫達の前で踊ってみぬか？」
「サンマさんって踊ったか？」
「どうじゃったろうのぅ。だがイベントにダンスは付き物じゃろう」
　いわれて見れば、確かに。
（踊り、なぁ……）
　ダンスは特に得意でもないが、運動には自信がある。
　刀はサンマさんの着ぐるみを着たまま、思いっきりバクテンをかました。
　くるくると連続でバクテンする刀。
　観客から歓声が沸き起こる。
　横にいた駒鳥も「ほぉ、見事じゃのぅ」と感嘆の声を漏らした。
　くるんくるんと派手にバクテンしながら、刀はきっちり周囲をチェック！
　小さな子供が巨猫様に悪戯するのを即座に阻止。
　巨猫様と子供の前にくるっと回って入り込み、巨猫様が子供に嬉々として飛び掛るのを押し留める。
「猫も驚くと、ねこパンチが出てしまいますからな。お子様の手を繋いでおいてもらえるかのぅ」
　刀が巨猫様を押さえている間に、駒鳥が子供の手を引いて母親のもとへ。
（危なかったな。子供なんか前足で触れただけで壊れそうだ。……っと？！）
　ぱっくん！
　刀に押さえつけられていた巨猫様が、刀を頭からぱっくん！
（おいおいおい、何事だ？　真っ暗だぞ？！　というか、まさかと思うがこれ、口の中じゃないかーーーーー？！）
　喰われる訳にはいかないと、必死で手足をばたつかせる刀。
　口元を殴れば離しそうだが、猫思いの刀にそんな真似が出来るはずもない。
　ましてや人目もあるし！
（サンマさんだけど秋刀魚じゃない、秋刀魚じゃないんだ。食えないから離せ、な？！）
　懸命に口の中で巨猫様に訴える刀。
　周囲の観客はこれもパフォーマンスだと思い、楽しげな笑い声と共に見守っている。
　事態に気づいたのは、駒鳥だった。
「お主、まさか本当に食われておるのか？」
　周囲の観客に聞こえぬよう小声で、刀に確認を取る。
　じたじたと、なんとか駒鳥にアピールする刀。
　こくりと頷いた駒鳥は、なんと巨猫様の首根っこをひょいっと掴んだ。
「お主達、力強いんじゃから。めっ！　じゃ」
　叱られた巨猫様はしぶしぶと刀を吐き出した。
　けふっ！
　軽くむせって、刀を名残惜しそうに見つめる巨猫様。
　よろよろと頭を振って、なんとか刀は立ち上がる。
　観客から拍手喝采が沸き起こる。
（ほんっきで、ヤバかったぜ……）
　着ぐるみの中にまで、巨猫様の牙が届いていたらしい。
　着ぐるみの綿が、中側まで破れてこぼれてきている。
（あ～あ、サンマさんの着ぐるみがボロボロで弁償だよ！）
　着ぐるみの中に入っている状態でも、外側がどうなっているのか容易に想像が付く状態だった。
　ボロボロになったサンマさんの着ぐるみは、きっと全額弁償だ。
（バイト増やさないと）
　冷や汗をかきまくりながら、刀はそれでも観客に愛想を振りまいた。
　