巨猫さま、襲来！｜リアクション

巨猫さま、襲来！

　てくてくてく。
　いつものように恵御納夏朝はお猫様に会いに来ていた。
　寝子島はお猫様癒されスポットが多く、ここ寝子島駅前もその一つだった。
（……これも神魂の仕業？）
　大量のフツウじゃないお猫様たち。
　その最もたる巨猫様三匹は、間違いなくろっこんや神魂の影響を受けているだろう。
　イベント、と周知して回っている人達もいるが、見る人が見ればわかる。
　恐らくイベントとして、一般人への被害を抑えているのだろうことも。
（ミエコちゃんの時とは別の神魂なのかな……）
　以前もあった巨猫様騒動のミエコちゃんは、夏朝にとっては思い出深い。
（巨猫様達はあんまり動かないのかな……。それに側にイベントの人たちがいるし……）　　
　なら、夏朝がすることは太りすぎでぎりぎりごまかせそうな、でも明らかに影響を受けているお猫様たちをこの場所から移動させない事。
「いいこだから、あんまり離れちゃ駄目だー」
　常に常備の猫のパペットで、夏朝は駅から離れかけていたデブ猫さまに話しかける。
　おデブだけれど尻尾のながーいお猫様は、転がるように振り返った。
　丸い。
　前から見ても横から見ても、上から見ても、丸い。
　尻尾が長いから、風船のよう。
「毛並みのお手入れをしましょう。気持ちいいといいんだ」
　ほわーっとポケットからブラシを取り出して、夏朝はいそいそとおデブ猫をブラッシング。
　人馴れしているとはいえ野良猫だから、なれない感触に一瞬びくつくおデブ猫。
　そんなおデブ猫様に夏朝は猫型パペットで安全をアピール。
「だいじょうぶだいじょうぶ、こわくないー」
　ぱくぱくぱく。
　猫型パペットの口も一緒にパクパク動かしてみる。
　おデブ猫はとりあえず逃げ出す事はしなくなった。
　夏朝がブラシを入れれば入れるだけ、気持ちよい事に気づいたのだろう。
　尻尾がぴんとのび、お腹をごろんと仰向けた。
「お腹もブラッシングだ」
　背中よりもさらにもっふりと、そしてお腹のふにふにと柔らかいお肉の感覚が楽しくなる。
（テオ君、隔離してくれないかなぁ……）
　フツウを守る為に、テオ君に協力を仰ぎたいところなのだが、ちょっといまいないっぽく？
（もっふもふで幸せだから、いいかな）
　けれどふと、夏朝は視線を感じて振り返った。
　――　イベントって言うけれど……
　――　何かおかしいよね。こんな大きな猫達……
　そんなひそひそ話も聞こえてくる。
　夏朝はすっくと立ち上がった。
　てくてくてく。
　マイペースに、そして迷う事無く疑う人々に近付く夏朝。
　そして、人々に携帯の写真を見せる。
「ネット上に、とても大きい猫さんの写真があるんだ」
　夏朝が見せた写真の中には、筋骨隆々の飼い主が、その逞しい両腕を広げて抱きかかえる、これまたおデブなお猫様が映っていた。
「特定の種類……メインクーンやノルウェージャンフォレストキャットとかは、こんなふうにかなり大きくなるらしいよ」
　両手を広げて説明する夏朝。
　それでも、人々は困惑するばかり。
（それなら……）
　夏朝は、てくてくとおデブ猫様を抱き上げる。
「なら……疑惑の大もふ、その身で体感しろぉぉぉ！」
　言うが早いか、おデブ猫様のお腹を疑惑のまなざしを向ける人々の顔に押し付けた。
　押し付けられた人は「？！！？！？！」っと声にならない悲鳴をあげ、でもおデブ猫のもっふり感にめろめろ。
「へんだけど、可愛いわよねぇ」
　そんな事を言い始める。
「猫さんは……大きくても小さくても、フツウの大きさでも可愛いんだよ」
　可愛いと認めた人々に、夏朝は猫型パペットと一緒に大きく頷いた。　　　