鈴島、森に隠された古代遺跡｜リアクション

鈴島、森に隠された古代遺跡

●遺跡の入り口

　森にホイッスルが鳴り響く。
　上空から各班の居場所を把握していたカナリアのラッセルは、ただちにこの報せをみんなに伝えた。
　散り散りになっていた探検隊一行が、発煙筒の煙を頼りに集まってきた。

　それは、ごつごつと牙の生えた、大きな『石の口』だった。
　もともとは獣か鬼か、見る者に恐れを抱かせるようなものの頭部全体が存在していたのだろう。しかしいまはそのほとんどが崩れたり植物に覆い隠されたりしていて、そこにあるのは黒々と開いた『口』だけだった。
　太い蛇のようなうねる木の根、さらに蔦や小枝が絡み、今日まで『口』を覆い隠していたのだ。
　『口』の先は丘のような地形になっていて、遺跡はその中腹をくり抜いて作られているらしい。火山の噴火でできた穴というには人工的過ぎたが、遺跡が地上にはないだろうという天吏の推理は的を得ていたといえる。
（へへっ、新しく遺跡が発見されたとなれば、一大スクープだ。そうなれば俺も寝子島なんて辺鄙な島に暮らさなくて済む……）
　雨垂ミゾレは夢中でシャッターを切る。

　後木真央がみんなを呼び集めた。
「遺跡の入り口を囲んで並ぶのだー。集合写真を撮るのだ！」
　みんなが並ぶと、双眼鏡を下げた伊賀解理が、厳かな声でナレーションを入れた。

「――こうして様々な困難がありながらも鈴島遺跡探検隊は古代遺跡へと到着したのだった」

　それを聞いていた旅鴉月詠が片眉を上げる。
「伊賀……いいナレーションだな」
「む、旅鴉氏もこの場面でのナレーションの大事さがわかるのかい？」
「無論だ」
　がしっと手と手を取りあう解理と月詠。
「あとはとりあえずめちゃくちゃでかくて激しいタッチのタイトルが必須だなんだが」
「こんなのか？」
　月詠はスケッチブックにすらすらと、往年の探検番組で見たような激しいタッチのタイトルをしたためる。

　　＜鈴島古代遺跡は実在した！　遺跡の中には何があるのか！　魔の森に隠された謎に挑む！＞

「くうっ！　いいね！　そうだよ、それだよ！」
　解理は興奮した。
「準備はいいのだー？」
　真央はタイマーをセットし、自分も走ってみんなの後ろに入る。「１＋１はー？」
　「２ー！」とか「３ー！」とか「５ー！」とかいう声に混じって、シャッター音がした。思い思いの探検ルックと見事なタイトルのお蔭で、まことに鈴島遺跡探検隊「らしい」一枚が撮れたのではないだろうか。

　このとき太陽はすでに天頂にあった。
　一行はここで休憩と昼食を取ってから、遺跡内部へと向かうことにした。
　その間に小山内海は遺跡の入り口をスケッチする。
　と、ここで大天使天吏がぽつりと探検隊からの離脱を宣言した。
「遺跡、見張ってるから……はい」
　彼女が差し出した飴の袋は、先へ進むみんなへの餞。
　天吏は入り口を発見できただけで満足だった。鳥が居ないであろう地下遺跡に興味はないのだ。
　逆巻天野が、予め発光塗料を含ませておいた糸を、入り口付近の木に結んだ。この糸を垂らしながら遺跡内を進もうという方策だ。
「これなら道を汚さず、迷子でも合流しやすいでしょ」
　帰りはもちろん回収するよ、と天吏や周りの者たちに言い含める。そうして天野は一歩下がり、意気込む探検隊員たちに向かって、うっとりするような笑みを浮かべた。
「さあ、きりきり働いて構わないよ――君達がね」

　こうして、ひとり欠けた鈴島探検隊一行は、いよいよ遺跡の内部へ向かう。

　――月詠のナレーション。
「君達の行く末に何が待ち受けるのか。君達は高まる胸を抑え一歩を踏み出した」