鈴島、森に隠された古代遺跡｜リアクション

鈴島、森に隠された古代遺跡

●大広間その２

　作戦が立てられた。
　まずは、奥の扉への到達を優先する。
　――これまでの経験から行くと、なにかを解除するしかけがあるはず。
　奥の扉を目指す者は、部屋の端を回って魔法陣を踏まないように移動する。
　問題は、手持ちの灯りをもってしても部屋が暗くて足元が見えにくい事と、魔法陣そのものも年月に晒されかすれ気味で、その範囲が分かりにくいということだった。
　そこで万が一に備えて、囮を用意する作戦を思いついた。扉へ向かう者たちとは反対側で敢えて陣を踏み、石像を引きつけるのだ。この囮役には、弘明寺能美子と李小麗が志願した。
　鬼崎あやめや黒依アリーセもはじめ囮役に名乗り出たが、囮ばかりでは仕方がないので、話し合いの末、奥の扉を目指す役を引き受けることにした。
　あらあら、と尾鎌蛇那伊が苦笑する。
「囮役を買って出たのが身体能力に自信がない子達？　囮こそ身体能力が必要なのに困った子達ね。いいわ、アタシがフォローしてあげる」
　エヴァ・ブランシェも『鼓舞激励』と書かれた扇子を優雅に開いて、後方支援を申し出てくれた。もちろん、その他の探検隊のメンバーもそれぞれ力を尽くすつもりでいる。

「皆、下がってて」
　能美子が一歩前に出る。
「我儘言って奥まで来たんですもの、これくらいやるわ」
　魔法陣の前に立ち、思い切って両足で中に踏み込む。２体の石像――ここからは便宜上、口を開いている方を【阿】、口を閉じている方を【吽】と呼ぶことにする――が動きだし、石造りの身体とは思えぬ勢いで、どっ、どっと重い音を立てながら囮役の能美子と小麗の方へ向かってくる。エヴァが扇を振い、ろっこん＜タービュランス＞で石像を吹き飛ばせないか試したが、この試みは上手くいかなかった。
　能美子はじっとりと汗を掻いた手を握りしめて石像を凝視していた。
　目を閉じちゃだめだ。
　しっかり見て！
「入ったら動く、出たら止まるってことは……！」
　ぎりぎりまで引きつけて――陣から飛び出る！
　安堵のため息。【阿】は能美子の目の前で止まっている。【吽】も、その少し後ろに。うまく行った！
「今なのだ！」

　小麗の声に、陣の反対側で待機していたあやめとアリーセが駆けだした。
　石像を吹き飛ばせないと知ったエヴァは、今度は彼女たちに向かって扇を振って、扉へ向かってふたりの身体を吹き飛ばした。お蔭で、あやめとアリーセはあっという間に扉までたどり着くことができた。が、焦った表情であやめが叫ぶ。
「一人足りないです！」
　そう。この部屋の石版も、いままで同様三人で踏む仕掛けだった。にもかかわらず、奥の部屋へ向かったのはふたりしかいなかったのだ！
　あやめは手近にいた雨垂ミゾレの手をぐっと掴むと笑顔を作った。
「もちろん、私たちと一緒に石板を踏んでくれますよねっ！？」
　はじめ戸惑ったミゾレだったが、そのうち瞳をとろんとさせ、魅了されたようになった。
　あやめが＜リリスの微笑み＞を発動させたのだ。
「お、おう」
　ミゾレは頷くと、アリーセ、あやめとともに小部屋の中に駆け込んだ。

　こうして、あやめ、アリーセ、ミゾレの三人が小部屋の中にあった石版を押すと、軽い振動があり、どこか遠くで仕掛けが動いた気配がした。
　これまでの関門でみんなを閉じ込めた小部屋の扉が、すべて開いたのだ。
　そして、石版を押した三人はこの最後の扉に閉じ込められることなく大広間へと戻って来た。
「これで石像が動かなくなったりしないのだ……？」
　小麗が軽く陣を踏んでみる。すると【阿】はさきほど能美子がいたところへ斧を振り下ろし、小麗が慌てて陣から出るとまた止まった。見ると、振り下ろされた斧の一撃で、床の石畳の一部が砕かれていた。
「そんなことはない……みたいね」
　能美子は蛇那伊の腕の中で大きく息を吐くと、いま生きていることに感謝した。