鈴島、森に隠された古代遺跡｜リアクション

鈴島、森に隠された古代遺跡

●火の試練２

　陽二が、炎のこちら側、通路の両端にツールナイフと腕時計を配置した。
「あとは炎の向こう側にもう一つ、こいつを投げ込めればいいんだが」
　ろっこんを形成するのに必要なもう一つの私物、ステンレス製の水筒を手にした陽二は、海に頼んだ。
「小山内のろっこんでこいつを炎の向こう側に打ち出してもらうことはできるか？」
『おやすいごようだよ』
　海が空間に描くラインは加速線。
　炎の直前までしゅっとひと息で放物線を描き、勢いをつけて水筒を放ると、そのラインに乗せる！
　＜アクセラレイトライン＞！
　水筒はぐんっと勢いを増し、炎を超える！
「どうだっ！？」
『ギリギリだけど　ほのおのむこうに　おちたよ！』
「さんきゅ、小山内！」
　これで、炎のない場所から炎の道の向こう側までの範囲を、陽二が結界を張るのに必要な三つの私物で囲むことができた。
「いくぜ！」
　陽二は、この試練を突破したいという熱い想いで、ぱん！　と床に両手を突く。
　三つの私物を頂点とした三角形が形成され、＜俺の領域＞が発動した！

　はじめ、失敗かと思った。炎がその領域に侵入し続けていたからだ。
「くっ……頼む……！」
　しかし、陽二の強い想いが結界を強くした。
　三角形の領域から、ぐぐぐ、と炎のかたちが追い出されてゆく。
　通路の真ん中に、ぽっかりと空間が出来た。
「いいぞ、行ってくれ！」
　刀に合図する。

　刀は、熱を防ぐために、汲んでおいた水を自分に掛けた。
　撃鉄が落ちるイメージ。まずは一人で、＜加速＞。
「……った、あちっ！　あちっ！」
　刀は向こう側に駆け抜けたものの、手であちこちを払った。
「炎は防げても、熱さは防げてないのか。見えないけれど、炎が出ているときは熱いから、タイミングを合せる方がいいってことだな」
　小部屋の存在を確認し、今度はタイミングを計って戻って来た刀にチカがいった。
「最初に運んでもらえますか？　向こう側から炎を見て合図を出しますよーっ」
「わかった」
　刀はチカを抱く。
　炎が止まる１秒の隙間を縫って、＜加速＞！
「っ、やっぱり一人よりは加速しない、か」
　加速しないわけではなかったが、抱えた人の重さは無視できない。どうしても速度は落ちてしまう。
　これはもう、気合で駆けるしか、ない。
「っつ、はあ……、ついた！　大丈夫だったか！？」
　必死だったからか鈍いからか、チカを女の子と信じて疑わない刀は紳士的だった。
「お蔭様で。じゃ、残り２往復、よろしくおねがいしまーす♪」
　にこにこっ、と微笑むチカに、刀は肩で息をして答えた。
「や……、ちょっと、休ませてくれ」

◇

　しばし休息を挟んだのち、刀はなぎさも炎の向こう側に運んだ。
　最後は、海だ。
　海もまた、熱を少しでも防ごうと、刀が汲んで来た水でタオルや服を濡らした。
「小山内、行けるか？」
『うん　でも』
「でも？」
『ふく　すけてない　よね？』
「服が透ける！？」
　刀の視線が彷徨った。
　それまで意識していなかったのに、そんなふうにいわれたら気になってしまうじゃないか。
「えっと……上着貸すよ」
　刀は自分の上着を脱ぐと、海の肩に掛けた。それから、その上着ごと包み込むように海を抱く。
　海はどぎまぎした。
（か、顔が近い……）
「しっかりつかまっててくれよ」
　頷く。それしかできないから。
　刀のにおいがした。

　チカの合図で刀が加速した。海も、＜アクセラレイトライン＞で加速を補助する。
　ほんとうに、あっという間だった。
「ついたよ」
　名残惜しかったけれど、ずっとそうしているわけにはいかないから、海はゆっくりと腕をほどく。刀が顔を覗き込んできた。
「小山内？　顔が赤いけど大丈夫か？」
　頬はまだ火照ったままだけど、スケッチブックに戸惑いは書かない。
『だいじょうぶ　だから　いこう！』
　こうして、刀、海、チカ、なぎさの４人が石版に乗り、小部屋の扉が閉まると同時に、探検隊一行の行く手を阻んでいた炎も消えた。

◇

　仕掛けが止まったのを見て、陽二はようやく結界を解いた。
　ツールナイフと腕時計を拾い、それからまだ熱の残る通路を歩いてわたる。
「おい、俺たちやったじゃん！」
　小部屋の扉に拳を当てると、中から、
「あとは頼んだ……って小山内がいってる」と刀の声がした。
「おう！」
　と応えて、海に打ち出して貰った水筒を拾って――「あちっ！」
　炎の熱に炙られていたステンレス製の水筒は熱くて、陽二は指先を耳たぶに当てた。
「うーっ、火傷したかなあー。だれか治療してくれー」

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