鈴島、森に隠された古代遺跡｜リアクション

鈴島、森に隠された古代遺跡

●風の試練１

　歩いて歩いて幾つめかの角を曲がる。
　その途端、先頭を歩いていた立井駒鳥と詠坂紫蓮は強い向かい風に煽られた。
　ジャージに、ゴーグル、ヘッドランプ。そんな駒鳥の首に巻かれた橙色マフラーが激しくはためく。
「きゃあっ」
「おっと」
　駒鳥は、倒れかけた紫蓮を支えると、屈んで自らの呼吸確保をした。
　それから遮る壁を頭に強く浮かべ、前方へ片手を翳す。
「待て！」
　短く叫ぶと、＜ウィーク＆ソリッドウォール＞が発動し、地面から翳した手の高さまで壁が出現した。
　ふたりはその壁を風よけにしてしゃがみ込む。
「大丈夫か？」
「はふぅ……びっくりしたあ。立井君こそ大丈夫？」
「伊達に鍛えとらん。踏ん張りが効かぬ俺ではないよ」
　かかか、と笑う駒鳥に、紫蓮は改めて礼を言った。
「次は風の試練みたいね」
「そうじゃな。しかし参った。この風では松明は消えてしまうじゃろうし」
　駒鳥はひょいと頭を上げてみる。
　ヘッドランプの光はもちろんあるのだが、風で顔を上げるのが難しいこともあり、通路の先までは見えない。
　すると、紫蓮はおもむろに荷物から風車を取り出した。
「私、風車持ってきたの。この間の七夕祭りで買ったんだ」

「ほら、こうやって風の動きを調べたり……」
　強風に風車を翳してみたが、思ったように回らない。
「あれ？　き、きっと最初にちょっと動かしてあげれば動くよ！　それ、ふぅーって……」
　紫蓮は風車を右手に持ち、思い切り息を吹きかけた。その途端。
「……ちょ、何これ。左手が光ってる！」
　なんということだろう。風車が回り出した途端、持っていない方の左手が光ったではないか。
「まさかこれが私の……？」
　ろっこんだとでもいうのだろうか。
「あ、風車止まったら光も消えちゃった。立井君、ちょっとこの風車吹いてみてくれない？」
　何が何やらわからなかったが、駒鳥は頼まれたとおり、紫蓮の風車を吹いてみる。
　しかし、駒鳥の息では紫蓮の左手は光らない。
「うーん、他の人が吹いても光らないし、自分で回さないと駄目みたいね。風車も右手に持ってないと光らないし。便利だけどずっと吹いてなきゃいけないから地味だし疲れるかも……ふうっ」
　風車を強風に向けて、さらに自らの息を吹きかけたそのとき。
「って、まぶしッ！　風がすごい！　風車の勢いが増したら光の強さも強くなった！　って事は最初だけ自分で吹いて回せばよかったのかしら……」
　そう思って吹きやめてみると光はなくなってしまうから、吹きつづけていないといけないようだ。それでも、息に加えて風の力を利用することはできるようで、風車が勢いよく回れば、それだけ光は強くなる。
「これで奥のほうまで見渡せるかな？」
　紫蓮が前方に左手を翳すと、あたりは真昼のように明るくなった。
「あっ、あった！　小部屋、この先にあるよ！」
　風は真正面から吹いてくる。通路は小部屋のところまでまっすぐのびていて、そこから直角に曲がっているらしい。そしてちょうど、今いる位置の正面に、風の吹き出し口があるようだった。
「これで状況はわかったのう。では、俺が、風除け役として先陣を切ろう。鍛えておるからな。体力も筋力十分じゃ」
　駒鳥がそういうと紫蓮も頷き。
「じゃあ私が後ろから明りで照らすね」
　そこに恵御納夏朝が進み出た。

「僕にも出来ることがありそう。手伝うよ」
「あ、あの、私も……」
　北原みゆきも風の試練に立ち向かうことを決意し名乗りを上げた。
　自分の体形なら風の抵抗は少なくて済むんじゃないかと思ったのだ。
　駒鳥はふたりと握手するとにかっと笑った。
「よろしくのう。詠坂、恵御納、北原、俺の４人で、風チームじゃ！」