鈴島、森に隠された古代遺跡｜リアクション

鈴島、森に隠された古代遺跡

●水の試練１

「石版の上に三人……入口のあれはそういう事か。つまりはここから先も同じく三人が乗って他が先に進むスタイルというわけだな」
　伊賀解理は早くもこの遺跡のルールを理解していた。みんなと一緒にまた、上がったり下がったり曲がったりしながら先へと進む。すると通路の行く手正面に水の流れる壁が現れた。
「次の試練は水……って、行き止まりじゃないか。それに小部屋への通路もない。どういうことだね！」

「行き止まり？」
　桜井ラッセルが声を上げる。
　水の壁の真下は水を受けるため、半円状の泉になっていた。
　正面は石壁で、滝のように水のカーテンがかかっている。
　ライトで照らすと、その石壁には縦に切れ目が入っているようだ。
「門かこれ……」
「水が溢れてるし、門の向こうは水で、水圧でこの門を押さえてるって事？」
　桜庭円が水の壁を観察した。すると水の壁の一番上に、スリットのような隙間があって、そこから水が流れ出ている。
「んー、水圧でどうこう、って仕掛けなら、水が出てくるところに替えの服でも詰めればーって思ったけど、そういうわけじゃないのかな」
　解理がいった。
「こういうの、公園とかで見たことない？　壁のところが噴水みたいになってるやつだよ。壁泉とか壁噴水とか言うんだったかな、そんなふうに壁の中に水の通り道があるんじゃないだろうか。もしも向こう側が水でいっぱいだったら、門を開けた途端に僕たちは水で流されてしまう。それはないんじゃないか、……という気がする」
　ラッセルは靴を脱いで泉に入ってみた。泉は足首ほどまでしかなく浅かった。
　大丈夫だと判断し、水のカーテンの中に手を差し入れて、壁を押したり引いたりしてみる。
「開かねぇ。他には」
　あたりを軽く見渡してみるが、これといって何も見つからない。
「やっぱりこの門が怪しいな。この水がなければもっとじっくり調べられるんだが」
「ボク、ちょっと試してみたいことがあるんだけどー」
　そういったのは円だ。
　円は腰を落とすと半身を乗り出し、手刀を構える。
「寝子島書房の本で海賊について調べていた時見つけた技なんだー！」

　望瀬（モーゼ）斬り
　飛鳥時代。
　関東は木天蓼湾を根城としていた鈴島海賊に
　水を操るのに長けた船乗りがいた。
　あるとき天にいかづちが走り、神の怒りと呼ばれる大嵐が起こった。
　仲間が鈴島に取り残され、襲いくる波にいまにも飲まれるかと思われたとき、
　船乗りが手刀で海を斬った。
　その途端、海は２つに割れ、人々は割れた海底を渡って、寝子島へと逃がれたという。
　　　　　　　　　　　　　　　　『関東海賊今昔』第８章　驚きの海賊技　より抜粋（寝子島書房刊）

「寝子島書房の実践読者としては！　この技、一度試してみたい！」
「ね、寝子島書房かぁ」
　ラッセルが苦笑いをした。寝子島書房といえば、奇書怪書で有名な出版社。その真贋の定かならぬことこの上なしとすらいわれている。
　しかし円は真剣だ。手刀を構え、勢いよく滝を斬りつける！
「おおっ？」
　円の手刀はたしかに一瞬滝を割った。が、それは、流れの中に手を差し入れれば水が割れるという、ごく普通の現象の延長上でしかなかったかもしれない。
　円は首を振って「まだまだ鍛錬が足りないなー」といった。
（た、鍛錬の問題か……？）とラッセルも解理も思ったが口には出さなかった。
　どうしたものか、という空気の中、
「俺がやろう」
　そう申し出てくれたのは、189センチという恵まれた身体を持つマウル・赤城・スティックだった。
「俺が体格を生かして、この滝をせき止めよう。戸板のようなもので水をせき止めるから、その隙に誰かが門を調べる。それでどうだ」
　それは、とてもよい提案のように思われた。
　ちょうどよい戸板のようなものが、見つかれば。