鈴島、森に隠された古代遺跡｜リアクション

鈴島、森に隠された古代遺跡

●地の試練１

「……あ、あれ？　がおー！？」
　戸惑う後木真央の脇を、一陣の風が駆け抜けた。
　常闇月だ！
「っ、間に合えっ……！」

　荷物はベルトポーチひとつという身軽な月は、まるで黒いつむじ風！
　ひゅんっ、と音を立てて、グローブに仕込んであった鋼糸が空を切る！
　鋼糸は一直線に伸び、見事、落ちゆくがおーの身体を絡め取った。
「みぎゃーっ！」
「くっ、意外と重いッ、手伝ってください！」
　弾かれるように真央が動き、月を支える。
　がおーの身体が穴から引き上げられ、真央はぎゅうっとがおーを抱きしめた。
「がおー！！」
　やわらかい毛並みに食い込んだ鋼糸を外すと、月はがおーをそっと撫でた。
「……すみません、咄嗟でしたので。痛くありませんか？」
「にゃ～お～」
　大丈夫、というようにがおーは鳴いて喉を鳴らす。
「ありがとうなのだ月ちゃん！　月ちゃんはがおーの命の恩人なのだ！」

　月は、真央に静かに一礼すると、ペンライトで照らして穴を覗き込んだ。
「落とし穴のトラップですね……床を踏んだら落ちる仕掛けになっていたようです」
　龍目豪もまたライトを穴の奥に向ける。
「底に槍などの仕掛けはないけど、壁面はぬめぬめしてるな。落ちたら上がるのは困難だろう」
　道の先を照らしてみれば、普通の幅跳び程度では飛び越えることが出来ないほど向こうまで床が落ちてしまっているようだ。
　どうする、という声に、進み出たのは旅鴉月詠だった。
「これの出番だろう、真央」
　月詠はスケッチブックを取り出すと、そのうちの１枚をおもむろに破いた。
　その途端、現れ出でたものを見て真央が表情を綻ばせる。
「あーっ、巴ちゃんと真央ちゃんが用意してきた梯子！　うん、これが向こうまで届くか試す価値はあるのだ！」
　梯子を伸ばして穴に掛けてみる。梯子の長さは１０メートル、落とし穴もちょうど同じくらいの長さだった。
　届く。だが、ギリギリすぎて安定に欠ける。梯子の古さも考えると、この状況で上を渡るというのはなんとも心もとない。
「向こうとこちらをロープで固定すればもうすこしマシな橋になりそうだが……」
　豪がそういうと、月詠が月に水を向けた。
「行けるか？」
　月は壁に触れて確認してから静かに頷く。
「壁の材質、強度、そして私の身体能力………可能かと」
「では、頼む」
「承知しました」
　月は豪からロープを預かり肩に掛けると、ペンライトを穴の淵に設置した。みんなは壁際に寄って道をあけ、月を見守る。ぎりぎりまで下がって身を屈めた月は、クラウチングスタートの要領で腰を上げた。
　スタート、即、加速。
　穴の手前、ペンライトを目印に。
　踏み切り！
　次の足は壁を蹴り、跳躍！
「はっ！」
　まるで蝶のように軽々と、とんとんっと壁を駆ける。
　そして、最後のひと蹴りでくるりと身体を一回転させ、華麗に向こう岸へと着地した。
「届きましたね」
　ふう、と月は一呼吸する。
「おおおお！！！」
　見守っていた探検隊一行から拍手喝さいが起こった！
「常闇ー！　かっこいいぜ！　いったい何やってたんだ？」
　豪の問いかけは、いったいどんなスポーツを？　というような軽い意味だったのだが、月はすこし重いため息をつくと、「昔何をしてたか？　ですか……つまらないですよ」とだけ答えた。
「それでは頑丈そうな場所にロープを結びつけるとしましょう」