鈴島、森に隠された古代遺跡｜リアクション

鈴島、森に隠された古代遺跡

●地の試練２

「ロープ結びは任せとけ」
　備えよ常に、がモットーの青少年団体で野外活動の知識を身につけた龍目豪の指導で、落とし穴の向こう側では常闇月が、こちら側では真央と豪が、しっかりと梯子をロープで固定した。
「梯子は強度を考えなきゃならないんだな、了解したぜ」
　豪はさらに向こう岸にロープを投げると、月に頼んで固定してもらい、手すりも作った。
　この手すりがあれば、梯子にかかる力を軽減できるし、万が一梯子が落ちても掴むことができる。
　まず、身軽で陸上部も掛け持ちする後木真央が、がおーを抱いて梯子を渡った。
「大丈夫なのだー！　次の人どうぞなのだー！」
「では私が行こう」
　旅鴉月詠が注意深く一歩踏み出した。下を見ると、黒々とした穴が大きく口を開けている。
「……意外と深いな……」
　立ち止まっていた月詠の身体を、豪がすっと掬い上げた。
「ファイトー！」
「な、なんだ？」
「無理するな。俺が運んでやるよ」
　豪は片手で軽々と月詠を肩に乗せると歩き出した。
「わ、な、なにをする。重いだろう？」
「心配するな、軽いぜ！」

　そう。豪はろっこん＜軽いぜ！＞で月詠の重さをゼロにしていたのだ。
　豪は月詠を抱え、余裕の笑顔で梯子を渡り切った。

　梯子を渡ると、すこし先で月と真央が手招きしていた。
「来てください。こちらに怪しい小部屋があります」
「中に火みたいな模様がついた石のボタンがあるのだ。月ちゃんと乗ってみたけど何も起こらなかったのだ」
　月詠が小部屋とその床の中央にある石版を確認した。
「さっき見たレリーフにあったのと同じ火のエレメントか。あのレリーフが言わんとしていたことはおそらく、石板を三人で踏め、という事だ。たぶん、４つの石板があって、それを踏まないと進めないんだろう」
「なるほど。誰かが踏まなきゃならないなら、俺も行くよ。三人以上なら大丈夫だろうから、常闇、後木、旅鴉、俺の４人で踏もう」
　
　月詠は念の為、探検道具を封印したスケッチブックを、次に渡ってきた桜崎巴に渡した。
　４人は小部屋に入る。
「よーし、みんなでタイミングを合せて踏むのだー！」
　真央が面白がって、せーの！　と声を掛ける。
　４人がみんなで石版を踏み、その途端、小部屋の扉がばたんと閉まった。押しても引いても扉は開かない。
「うわ～閉じ込められたのだ～出してくれなのだ～！」
　きゃっきゃとはしゃぎながら真央が戸を叩く。
「大丈夫かい！？」
　扉の外から巴の声がした。
「怪我はないが閉じ込められたようだ。そっちは？　なにか変化があったか？」
　月詠が訊くと、ややあって巴の声がした。
「落ちた床がまたせり上がってきたよ。おかげで皆無事に先に進めそうだ」
　そうか、と豪はほっとした。
「ここは俺たちに任せて先に行け！」
「すまない。そうさせてもらう」と巴の声。
　そのとき、扉の向こうから探検部の後輩、北原みゆきの心配そうな声がした。
「龍目先輩、真央ちゃん……！」
「こっちは大丈夫だ。そっちこそ無理はするなよ、安全第一だからな。あとで話、詳しく聞かせてくれよ」
　豪の励ましに、みゆきは気丈に答えた。
「はい……！」

　探検隊一行はそれぞれ労いの声を掛けて去っていった。
　足音が消えた小部屋の中で、４人は落ち着いた様子で雑談を始めた。
　なかでも一番落ち着いていたのは月詠だった。
「では残った者でトランプでも始めようか？　なに、皆は大丈夫さ」