窓村センセイのはた迷惑な好奇心｜リアクション

窓村センセイのはた迷惑な好奇心

●昼下がり、通り道にて

「あれ、窓村のお兄さんじゃ！」
　今でこそ寮生活だが、元は旧市街に住んでいた立井駒鳥が、ヨレヨレの白衣の男に声を掛けた。
「こま君か」
　コンビニの袋を手に振り返った窓村の頭には、包帯。
「どうしたんじゃ、その頭？」
「これか。今、研究の真っ最中でね！」
　研究と包帯に、何の関わりが？
　包帯塗れの頭を嬉しそうに摩る窓村に、駒鳥は？マークを浮かべたが、頑張っとる人じゃ、無碍に出来んと協力を申し出た。
　窓村の喜びは、言うまでもない。時給２０００円を支払うという彼に、駒鳥は目を見開く。
「高給すぎんか？　リッチじゃの」
　猫背について歩きながらも、窓村のげっそりとこけた頬に、一抹の不安が過ぎる駒鳥だった。

　戻ってきた窓村を待っていたのは、お騒がせの浮穴開である。
　外部からの情報収集に限界を感じた彼は、手っ取り早く助手に立候補したのである。
「じゃあ二人とも、ちょっと早いけど始めようか」
「よろしくお願いします」
　開に向かって頭を下げる駒鳥に、窓村は早速、自分に注目するよう告げた。
　彼等が注意を向けた瞬間、窓村はギミックを発動させた。
　重力にしたがって落ちるやかんに駒鳥は目を剥き、咄嗟に受け止めようと身を乗り出したのであるが。

　くわぁ～ん！

　遅かった。
　すっかり縮んでしまった体は、駒鳥が２０センチ程、開が１５センチ程だった。
「目線がいきなり低く……何が起こったんじゃ？」
　体に不釣合いな程、ビッグになった椅子に、駒鳥はきょとんと辺りを見回した。
　その脇では開が、うわ言のように繰り返す。
「へぇ、このバイトってちっちゃくなる実験なんやぁ……（Ｘ５）！」
「……窓村の兄さん、説明して貰えんかのぉ？」
　ジト目のままワイルドに座り込む駒鳥に、窓村は目を輝かせて説明する。
「実は、かくかくしかじかでねっ！」

（小さくするろっこん……じゃろうか？）
　駒鳥の逡巡は、迫る窓村の手で中断された。
　瞬時にバックステップで躱す。
「ちょっと待て！　まだ話は……って、何じゃそのロープは！？」
　開までが、手にしたロープで駒鳥を捕獲しようと動いていた。
「こんな事もあろうかと、ロープを用意しておいたんや。人類進化の礎となれーやす」
　眼鏡の奥のブルーアイが、怪しく光る。
「冗談じゃない、俺は最初から協力すると言うておろうに！　嫌がる奴を無理やりは破廉恥じゃぞ！」
　じりじり迫ってくる開は、元々体力にかなりの差がある駒鳥には、簡単に押しやれた。
　ならば、と開はろっこんで自分に注意を惹き付けて、時間を稼ごうとするが【スピニング・トリック】の発動条件は、頭の上で皿を回す事。
　人形遊びの趣味を持たぬ窓村の部屋には、小さな体で回せる皿は一枚も無かった。

「聞けと言うのに！　俺は丈夫じゃからの、無駄に追われるのと、体を弄られる以外なら手伝う。それでどうじゃ？」
　とにかく追いかけっこは断固拒否、嫌じゃよと念を押した上で、両者は縮小サイズ時の身体能力の変化を調べるという事で合意し、実験を開始した。

　まず駒鳥は、自分が持ち上げられる、限界の重さに挑戦した。
　結果はと言えば、筋力というのは基本的に体重に比例して大きくなる。よって縮小した体に比例して小さくなっていた。
　だが、力は「体重に比例して落ちる」と言い切ってしまうには、語弊もあった。
　なぜなら通常体を支えるために使っていた筋力を、他へ回せるからだ。
　よって駒鳥は、小さくなる事によって、高い運動性能を示したのであった。

　実験は続く。駒鳥は、ふーっと長く細く息を吐き、気を収めた。
　椅子の脚の前に立つと、小さく息を漏らし、目にも止まらぬ速さで回し蹴る！
　何時もなら、ここで軽くへし折れるところだが、椅子はぴしりと嫌な音を立てたのみだった。
「無理かの」
　無謀と感じたか、駒鳥はそこで動きを制止した。

　が。

　自分もと真似した開が、椅子の脚を見事に外す。
　見事に転んで意識を失い、フェードアウトと相成ったのであった。