神出鬼没のわらびもち屋さん！？｜リアクション

神出鬼没のわらびもち屋さん！？

　刀はもぐもぐと口を動かしながら、
「うん……普通だ」
「普通ね」
　若菜も同意する。
「普通のわらびもちやな」
　と、柳司。
「はい、えっと、言いにくいんですが……業務用の大袋なので」
　屋台のお兄さんはもじもじとしている。
「おじいさんから作り方を習ったりとかはしなかったンんスか？」
　舞衣の問いに、
「僕が物心ついた時には祖父はとっくに屋台引きはやめていたので……」
「なるほどね」
　と能美子。
　その時。
　またあの声が聞こえる。わらび～もち～と、近くから。
「また出た！」
　と、刀。
「本物の！」
　と、柳司。
「別にこのお兄さんは偽物ってわけじゃないがな」
　と、修。
　そこへ職員室にいた一団と図書室の一団も、ちょうど合流してくる。
「どうやら、解決しちゃったみたいね」
　朝鳥さゆるがつぶやく。さして興味もないというように。
「いや、まだなんだ」
　と修。手早く一部始終を説明する。
「なるほど、どうやらこの人は噂の屋台ではない、と」
　白浜渚は頷く。
「追いかけるのだ追いかけるのだ今度こそつかまえるのだ！」
　走りだそうとする真央を、若菜が制止した。
「待って、追いかけるからいけないのかも」
「どういうことなのだ？」
　と真央。
「興味本位で屋台を追ってた俺たちは間違ってたってことか」
　修は得心のいった顔。
「そうだね、おじさんはきっとちゃんとわらびもちをたべてもらいたいんだ。ちゃんと作法を守ってくれるお客さんに」
　わらび～もち～の声。少しずつ近づいてきている。
「私にわらび餅を売って頂戴。貴方のわらび餅が私はどうしても、どうしても絶対に欲しいの。大好きな先生達一緒に食べたいの。私がこんなに欲しているのに逃げていくなんて許さない！はやく姿を現しなさい！わらび餅を売ってもらえるまで私はここから動かないわよ！」
　と、冴来。
「おじさ～ん、わらびもち食べたいのだ買いたいのだ部室でみんんなで食べたいのだ、わらびもちくださいなのだ～！」
　真央は駄々をこねる。
「わらびもちくださーい！」
　と若菜。
「おじさん！美味しいわらび餅を沢山下さい！！」
　と刀。
「わらび餅を一つ下さい……」
　と時子。
　みんなの声が届く。立ち止まる屋台。振り向くおじさん。
「へい、まいど」
　いい笑顔で営業スマイルを振りまく。ひと目でわかる、歴戦の屋台引きだと。
「あら、昔のまんまだわ」
　白沢先生はにこにこと笑っている。
「じいさん……！」
　屋台のお兄さんが驚く。
「の、幽霊かな」
　修が補足する。