神出鬼没のわらびもち屋さん！？｜リアクション

神出鬼没のわらびもち屋さん！？

　遠くから聞こえる「わらびーもちー」という声。その声に気付き、十文字若菜は走りだす。
「待てぇーい！　今日こそわたしにわらびもちを売りなさい！」
　わらびもちの屋台の噂は先生を通じて、もはや寝子高の甘味好き全員に膾炙していた。
「おいしいわらびもち、わたしの足で捕まえてみせる！」
　風のように駆ける若菜、その脇を暴風のように走り抜ける車がある。
「待つッスよ！　今日こそは逃さないッス！」
　叫びながらハンドルを回すのは霧桐舞衣だ。
　屋台は交差点を曲がっていく。それを追って舞衣の車も曲がる。ほとんどドリフトのように爆音を立てて飛ばしていく。若菜は驚き立ち止まる。
「速いー！　クソっ、さすがに車には勝てないかー！」
「当たり前だろ……」
　とつぶやいたのは浅沼柳司だ。
「おっ、柳司君もあの屋台を追っかけて？」
「まあな。とりあえず走って追いかければいけるかと思ったんだが――」
　もっとすごいのがいたな、と柳司は口に出さずに考える。
「あれだけの勢いなら、きっと追いついてるだろ……」
「だろうねー」
　二人は走るのをやめ、歩いていく。
　交差点を曲がった時、そこにいたのは停止した屋台と車。ただし、その屋台は――
「君も食べるッスか？」
「焼き芋……」
　舞衣が差し出した焼き芋を柳司は苦笑しながら受け取る。
「勘違いってやつか」
　舞衣は悔しそうに首をひねる。
「ぜったい声を聞いたと思ったンスが、どっかで見失ったんスかね」
「そうなのかなー、むー」
　若菜も焼き芋をかじりながら首をひねる。

　同じ頃、立井駒鳥も屋台探しに出発しようとしていた。
　愛車の自転車を引っ張りだし、乗り込もうとしたところで、一匹の猫が足にじゃれついてくる。
　駒鳥はそいつを抱え上げ、
「出会えぬ屋台、不思議よのう。良いよい！俄然燃える」
　それから空を見上げ、
「おいしいわらび餅に、会いに行くかの」

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