神出鬼没のわらびもち屋さん！？｜リアクション

神出鬼没のわらびもち屋さん！？

　職員室には白沢先生と牛瀬先生、それと冴来と若菜と時子、そして修。みんなの前にはわらびもちが並べられている。
「おいしい！」
　と若菜が歓声をあげる。
「そう、それはよかったわ」
　白沢先生はにこにこと笑う。
「確かにこいつはうまいな。昔食ったのよりうまい」
　牛瀬先生もしきりに頷いている。
　冴来はゆっくりとお茶を飲み、一息つく。
「よかった、こうして先生たちといっしょにお茶を飲みながらわらびもちを食べたかったんです」
「この子、一番大きな声出してたんですよ」
　若菜が冴来の肩を叩きながら笑う。先生たちも釣られたように笑う。冴来も照れ笑う。時子も控えめに笑い、修も薄く笑みを浮かべる。それから時子は、
「先生、よろしかったら昔の思い出を話してくれませんか？　興味があるんです」
「そうねぇ」
　と白沢先生は語り始めようとする。
　そこで職員室の扉が開く。
「お茶が入りましたぞ、皆さん。濃い目に煎れてみたんじゃが、どうかな」
　立井駒鳥がお盆に茶碗を乗せてやってくる。
　それぞれ礼を言って受け取り、駒鳥も席につく。
　牛瀬先生はお茶を一口含んで、
「うむ」
　とたった一言、しかし満足気。
　そうして茶会はしばらく続く。

　まあ、こんなものよね、とさゆるはわらびもちの食感を思い返しながら、図書室の机に肘をつく。こんなものよね、と言いながら、彼女はあのわらびもちの涼しい味をはっきり思い出している。
　思ったよりもあの味が気に入っていた自分に気づく。こんなものよね、と再び心に思う。
　おいしいものを食べた女の子なんてね、と付け加える。

　柳司は呟く。
「それにしても、ほんま懐かしかったなー。わらび～もちなんて呼び声、こっちに来てから初めてやったわ」
　マリベルはうなずく。
「ほんま、ウチも昔はお小遣いをやりくりして、買いに行ったもんやわ。あのおっちゃんのわらびもち、あの時の味そのまんまや。いや、それ以上？」
「そうだなぁ、うーん、なんだか大阪が懐かしくなってきたわ。どや、牛瀬先生に昔の話でも聞きにいかん？　あの人関西出身やって行ってたで」
　ええなええな、とマリベルは金髪を揺らしながら歩き出す。それを見て柳司は、そういえばこいつは人種的には日本人ではないのだ、と気付かされる。しかし、
「ま、関西人は関西人や」
　そうひとりごちる。

「おじさ～ん、わらびもち食べたいのだ買いたいのだ部室でみんんなで食べたいのだ、わらびもちくださいなのだ～！」
　と騒いだ結果、真央の手元には大量のわらびもちが渡った。
　それを今、陸上部の部室で若菜が必死に食べている。
「さっき職員室でもごちそうになったのに、さらになんて……！」
「だめなのだ真央もがんばるのだ今日中に食べないと悪くなっちゃうのだ！」
　たった二人で大量のきなこがけわらびもちを食べている。若菜はため息。
「ま、いっか……もうこれで今年一年分のわらびもち食べたと思えば」
「そういえば、侑ちゃんはどこへ行ったのだ？」
「逃げた……？」
　二人はあたりを見回す。

　七音侑は桐野正也と二人、校舎の裏にいた。
「ほら先輩、わたしのわらびもちもあげるにー♪」
「お、おう……」
　侑は楊枝に刺さったわらびもちを正也の方へ差し出す。
【これは、あーん♪ってやつか！？】
　と正也は心中狼狽、しかし、
「はい上ーげた！」
　と侑は楊枝を高々と掲げる。
「ああ、そういう……」
　正也はなぜかほっと胸を撫で下ろす。
「昔の復讐だにー。えへへ、でも懐かしいね、こうして二人でゆっくり甘いモノ食べて……」
「そうだな」
　二人は空を見上げる。きっと昔と同じ空がそこには広がっている。

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