ここは寝子島高校職員室。遠くから聞こえてくる声がある。
「わーらびーもちーわらびもちー」
節を付けて歌われる声に耳をそばだてる者が二人。
「懐かしいな、わらびもちの屋台か。関東の方にもあるもんなんやな」
牛瀬 巧がぽつりと呟く。
「あら、このあたりには結構昔から来てますよ。最近見かけないと思ってたけど」
白沢 絢子がそれに答える。
「そうなんです?」
牛瀬先生は意外そうな顔を擦る。
「昔ね、もう何十年前かしら……関西の方から来たっていうわらびもちの屋台引きのおじさんがいたんですよ。ついこの間、といっても十年になるかしら。いつの間にか来なくなって、どうしたかと思ってたけど、どうやらまだ元気みたいね。声も昔とおんなじだわ」
「なるほど、うん、ちょいと買ってきましょうかな。関西にいた頃を思い出しますわ。ちょうど仕事が一段落したところですしな」
言いながら牛瀬先生は職員室を出て行った。しばらくして帰ってくる。ところが不思議なことに、その表情は狐につままれたようだった。
「どうかしたんです?」
「声のする方に言ってみたんですけどな、姿が見当たらないんや……まるでぱっと消えてもうたみたいに――」
二人は顔を見合わせる。
「お化けかしら……」
「いや、誰かのいたずらって線もありますよ」
噂は広がっていく。同じようにわらびもちの屋台の声を聞いたという人たち、けれど不思議なことに、誰一人姿を見たものはいない。
白沢先生はもう声の聞こえない窓の外を眺めながら、呟く。
「もう一度食べたいわねぇ。あのおじさんのわらびもち、本当においしかったのよ……」
はじめましての方ははじめまして。そうでない方はまた来て頂いてありがとうございます。豪遊亭平朝です。
・今回のシナリオは夏の風物詩の一つ、わらびもちの屋台のお話です。
わらびもちの屋台は西の方の地域では一般的ですが、関東の方ではあまりポピュラーではありません。
ただ、白沢先生の話ではその昔寝子島にもわらびもちの屋台が来ていて、しかもそれは本当においしかったとのこと。
その頃のことを思い出させる声がまた、寝子島にやってきています。
しかし、牛瀬先生はじめ、わらびもち屋台の声を聞いた人たちは、まさに声はすれども姿は見えず、誰も屋台に出会いわらびもちにありつくことに成功していません。
わずかにその姿を見た人たちはこう証言します。
「まるで逃げられているようだった」と。
呼び込みながら逃げて行く不思議な屋台にみんな首をひねっています。
・皆さんは噂を耳にして、あるいはわらびもちを探した人たちに直接話を聞いて、この謎のわらびもち屋台を探しましょう。
そしてわらびもちにありつきましょう。
誰も会うことのできない屋台の謎――それを解きましょう。
出会うためのヒントはいくつかあります。
・ヒント一
昔のわらびもち屋台は、寝子島高校周辺を主に回っていました。
学生たちをメインターゲットに商売していたようです。
今の屋台も、声が聞こえるのはどうも同じ辺りのようです。
・ヒント二
白沢先生はこんなことを言っています。
「そういえばあのわらびもち屋台のおじさんは、故郷に家族を残して出稼ぎに来てるって言ってたわ。
夏は寝子島でわらびもちを売るのが一番稼ぎがいいんだって」
・ヒント三
牛瀬先生はこう呟きました。
「妙やったな。声の聞こえたあたりについたと思ったら、もうそこに屋台はなかった。声を消してどっかへ行ってもうたのかと思ったらそうやなかった。もう一度、その場所で微かに声がしたんや。わらびーもちー…ってな」
・ヒント四
屋台と出会うためにはおいしいわらびもちを食べたいという気持ちが一番大切かもしれません。
皆さんのご参加お待ちしております。