神出鬼没のわらびもち屋さん！？｜リアクション

神出鬼没のわらびもち屋さん！？

　走っているのは、真央と刀と能美子。修はすでに走るのを諦め、ゆっくりと後を歩いている。「力仕事は俺の領分じゃない」と嘯きながら。
「今のあなたのわらびもちが食べたい！」
　能美子はそう叫ぶ。
　修の横を、一台の車がすごい勢いで通り過ぎる。運転するのは霧桐舞衣、助手席には若菜、後部座席には柳司。
「みんなの力で捕まえるッスよー！」
　舞衣の雄叫びに、修は冷静に、
「みんなではなく車の力だろう……」
　さらに続いて、立井駒鳥が自転車で走り抜ける。
　前籠から何かが飛び出る。
「いかん、猫を落とした！」
　駒鳥は振り返る。落とされた猫は見事に着地して、興味なさそうに去っていく。
　それら全員が屋台に殺到する。衆目の中で、屋台は立ち止まる。屋台を引いていた人間は怯えたようにしゃがみ込む。
「消えな……い！？」
　刀が驚きの声をあげる。そこに喜びの色はない。どちらかというと戸惑いの色。
「あっさり捕まってしまったのだ……？」
　真央も戸惑っている。能美子は白けたように、
「拍子抜けだね」
　舞衣の車から若菜と柳司と運転者自身がぞろぞろ降りてくる。
　彼らに取り囲まれて、屋台の主はぶるぶると震えている。
「うう、すみません、すみません、ちゃんと売りますから許してください……」
　能美子が首をかしげる。
「ん？　どう見てもフツーの人でフツーの屋台だね」
「消えたりするようには見えないッスけど……」
　と、舞衣。
「それにおじさんじゃないのだ！　まだギリギリお兄さんなのだ！」
　真央は屋台を引いていた男を指差す。
「え、ええ、私は普通の屋台ですが……」
　男は怪訝な顔をしている。刀が問いただす。
「どうして、客から逃げたりしたんです？」
　実は、と屋台の男は口を開く。
「自分に自信がなくて……祖父の跡を継いだはいいものの、ちゃんと教わったわけでもなく、試行錯誤の自己流で、もしお客さんに怒られたらどうしようっておもったら怖くなっちゃって……」
　なるほど、と能美子は呟く。
「それでここ最近、このあたりを騒がせたってわけね」
「ここ最近……？」
　屋台の男は首をかしげる。
「僕が寝子島に来たのは今日が初めてですけど」
　え？　と一同の声。
「薄々そうじゃないかとは思ってたがな。本当の屋台は別にある」
　と、修。