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- 種族
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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
Mon seul Tresor
今日の店番はゴウの担当なのに、遅い。
日向 カノンは眠そうな緑色の瞳をやや鋭くしながら、とらんぷ堂を飛び出した。どうせ剛の事だから、どこかで道草でもくっているのだろうと見当をつけ、公園の中に姿を見つけたときは「ほらね、やっぱり」と、溜息をついた。
剛は楽しそうに猫と遊んでおり、その頭からは店番の事などすっかり抜け落ちていそうな顔をしていた。いつも見る無邪気な笑顔が無性にイラっと来て、カノンは先に帰ろうと踵を返した。
ヘッドフォン越しでも聞こえるブレーキ音に、気付いた時は目の前が真っ赤に染まっていた。日差しに熱せられたアスファルトが背中をジリジリと焼き、遠くでカノンの名前を呼ぶ剛の声が聞こえる。ぼやけた視界に、必死に目を凝らす。カノンを覗き込む剛の顔は涙で濡れており、ポタポタと雫が顔にかかる。
……馬鹿、泣き過ぎ。
そう呟いたはずの声は、カノンの耳には聞こえなかった。
最後まで……馬鹿なんだから……。
「……おに……い、……ちゃん……」
目の前で、従妹のカノンが轢かれた。
多分、店番のはずなのに帰って来ない俺に怒って探しに来たのだろう。公園で猫と遊ぶ俺を見てカノンは呆れて、先に帰ろうと足早で横断歩道を渡ろうとした瞬間、信号が赤になって……。
「カノン！！」
必死に伸ばした手は、何も掴めなかった。耳を突き刺すブレーキ音と、何かが衝突する音。カノンが倒れこみ、赤い血がアスファルトに広がる。
赤い赤い、水溜り。その中には、呆然とした顔の俺が映りこんでいた。
思い出すのは、一面の青。
海の中で見た、水面に浮かぶ親友。
透き通るような青に、絶望的な赤。
親友は、青が眠らせた。
従妹は、赤が奪い去った。
あの時と一緒。
俺があそこに行かなければ、俺が手を掴んでいれば。
俺が、俺が、俺が ――っ！！！
泣き叫んでも、
狂ったように名前を呼んでも、
何度「ごめんなさい」と言っても、
彼女が冷たいままなのは、あの時と同じ。
カノンの唇が動き、小さく何かを呟く。
けれど、聞こえない。
何も、聞こえない……。
音が緩やかに戻り、剛は顔をあげた。急いで家に帰り、自室でアイスを食べながら絵を描いているカノンの姿に、ほっと安堵の溜息をつく。そんなに慌ててどうしたの？ そう言いたい気な瞳が剛を真正面から見つめ、思わず強く抱き締める。カノンが抗議をするように身じろぐけれども、彼女の温もりに縋りたくて、彼女が生きている証を実感したくて、強く腕に力をこめる。
カノン……俺を置いていかんで。独りにせんで。今日はもう、どこにも行かせたない。
いっそ檻に入れてしまえたなら。
鎖で繋げたら。
どこにも行かないように、どこにも行けないように、ずっと傍に……。
そんな事は出来ないと分かっている。そんな感情はカノンにとって重たいだけだと、解っている。二度と大切な人を失いたくないから、束縛する。未だにあの頃の親友の笑顔にしがみつき、従妹の存在に縋りついている。いつまでも、誰かに依存するしか出来ない自分。知っている、分かっている。自分の心の歪みを、認識している。
けれど認識したところで、剛にはどうにも出来ない。
「……はあ、充電完了！ ほんまカノンて抱き心地ええわぁ。枕にしたい☆」
笑え。欠落なんてないかのように。笑え。カノンに心の歪みを気付かれないように。
カノンの不安そうな顔が、イラっとしたものに変わる。普段と様子の違う剛に心配したのだが、どうやら考え過ぎだったらしい。殴りたいほど清々しい笑顔に拳を握り締める。
「俺、店の方行ってくるなぁ」
いつもと同じ笑顔、いつもと変わらない口調。でも、剛の瞳の奥には普段と違った感情が見え隠れしており、カノンは思わず背中に声をかけた。
「僕は突然いなくならない」
剛が足を止め、何かを考え込むように俯き、左目を前髪で隠す。
カノンがドイツにいる間、剛がどうしていたのかなど知らない。けれど、今のゴウは知っている。時々無理して笑っている事も、ずっと何かを悔やんでる事も、僕にさえ最後の壁を作っている事も……。
「おおきに」
振り返った剛は笑顔だった。けれど何故かカノンには、泣いているように見えた。剛が店へと行き、カノンは小さく溜息をつくと目にかかる黒髪を横に払った。
何かあったはずなのに、何も言わない剛。明るく振舞っているけれど、きっと過去には暗い何かがある。誰にも助けを求められなくて、全てを背負い込んでいる不器用な剛。
「……だから、馬鹿は嫌いだ」
もっと要領良く生きたら良いのに。そう心の中で呟いたカノンの太ももに、溶けたアイスがポトリと落ちた。
日向 カノンは眠そうな緑色の瞳をやや鋭くしながら、とらんぷ堂を飛び出した。どうせ剛の事だから、どこかで道草でもくっているのだろうと見当をつけ、公園の中に姿を見つけたときは「ほらね、やっぱり」と、溜息をついた。
剛は楽しそうに猫と遊んでおり、その頭からは店番の事などすっかり抜け落ちていそうな顔をしていた。いつも見る無邪気な笑顔が無性にイラっと来て、カノンは先に帰ろうと踵を返した。
ヘッドフォン越しでも聞こえるブレーキ音に、気付いた時は目の前が真っ赤に染まっていた。日差しに熱せられたアスファルトが背中をジリジリと焼き、遠くでカノンの名前を呼ぶ剛の声が聞こえる。ぼやけた視界に、必死に目を凝らす。カノンを覗き込む剛の顔は涙で濡れており、ポタポタと雫が顔にかかる。
……馬鹿、泣き過ぎ。
そう呟いたはずの声は、カノンの耳には聞こえなかった。
最後まで……馬鹿なんだから……。
「……おに……い、……ちゃん……」
目の前で、従妹のカノンが轢かれた。
多分、店番のはずなのに帰って来ない俺に怒って探しに来たのだろう。公園で猫と遊ぶ俺を見てカノンは呆れて、先に帰ろうと足早で横断歩道を渡ろうとした瞬間、信号が赤になって……。
「カノン！！」
必死に伸ばした手は、何も掴めなかった。耳を突き刺すブレーキ音と、何かが衝突する音。カノンが倒れこみ、赤い血がアスファルトに広がる。
赤い赤い、水溜り。その中には、呆然とした顔の俺が映りこんでいた。
思い出すのは、一面の青。
海の中で見た、水面に浮かぶ親友。
透き通るような青に、絶望的な赤。
親友は、青が眠らせた。
従妹は、赤が奪い去った。
あの時と一緒。
俺があそこに行かなければ、俺が手を掴んでいれば。
俺が、俺が、俺が ――っ！！！
泣き叫んでも、
狂ったように名前を呼んでも、
何度「ごめんなさい」と言っても、
彼女が冷たいままなのは、あの時と同じ。
カノンの唇が動き、小さく何かを呟く。
けれど、聞こえない。
何も、聞こえない……。
音が緩やかに戻り、剛は顔をあげた。急いで家に帰り、自室でアイスを食べながら絵を描いているカノンの姿に、ほっと安堵の溜息をつく。そんなに慌ててどうしたの？ そう言いたい気な瞳が剛を真正面から見つめ、思わず強く抱き締める。カノンが抗議をするように身じろぐけれども、彼女の温もりに縋りたくて、彼女が生きている証を実感したくて、強く腕に力をこめる。
カノン……俺を置いていかんで。独りにせんで。今日はもう、どこにも行かせたない。
いっそ檻に入れてしまえたなら。
鎖で繋げたら。
どこにも行かないように、どこにも行けないように、ずっと傍に……。
そんな事は出来ないと分かっている。そんな感情はカノンにとって重たいだけだと、解っている。二度と大切な人を失いたくないから、束縛する。未だにあの頃の親友の笑顔にしがみつき、従妹の存在に縋りついている。いつまでも、誰かに依存するしか出来ない自分。知っている、分かっている。自分の心の歪みを、認識している。
けれど認識したところで、剛にはどうにも出来ない。
「……はあ、充電完了！ ほんまカノンて抱き心地ええわぁ。枕にしたい☆」
笑え。欠落なんてないかのように。笑え。カノンに心の歪みを気付かれないように。
カノンの不安そうな顔が、イラっとしたものに変わる。普段と様子の違う剛に心配したのだが、どうやら考え過ぎだったらしい。殴りたいほど清々しい笑顔に拳を握り締める。
「俺、店の方行ってくるなぁ」
いつもと同じ笑顔、いつもと変わらない口調。でも、剛の瞳の奥には普段と違った感情が見え隠れしており、カノンは思わず背中に声をかけた。
「僕は突然いなくならない」
剛が足を止め、何かを考え込むように俯き、左目を前髪で隠す。
カノンがドイツにいる間、剛がどうしていたのかなど知らない。けれど、今のゴウは知っている。時々無理して笑っている事も、ずっと何かを悔やんでる事も、僕にさえ最後の壁を作っている事も……。
「おおきに」
振り返った剛は笑顔だった。けれど何故かカノンには、泣いているように見えた。剛が店へと行き、カノンは小さく溜息をつくと目にかかる黒髪を横に払った。
何かあったはずなのに、何も言わない剛。明るく振舞っているけれど、きっと過去には暗い何かがある。誰にも助けを求められなくて、全てを背負い込んでいる不器用な剛。
「……だから、馬鹿は嫌いだ」
もっと要領良く生きたら良いのに。そう心の中で呟いたカノンの太ももに、溶けたアイスがポトリと落ちた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2013年12月17日
- 参加申し込みの期限
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- 2013年12月24日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2013年12月24日 11時00分
