Mon seul Tresor｜リアクション

Mon seul Tresor

　長いようで短い三年間だった。
　また明日卒業式で、と明るく言う友人達と別れ、遊琳は自宅へと急ぐと小さなバッグを一つ肩にかけ家を後にした。誰にも知られる事なく、寝子島を去って行く。明日の卒業式は、体調不良で欠席と連絡を入れるつもりだ。
　積んだ経験と知識を詰め込んだ身一つで、結んだ縁を全て捨てて故郷へ帰ると、最初から決めていた。携帯も電源を落とし、すぐに新しいものに変える予定だった。誰も知らない故郷の実家で、家業を継ぐ為の修行に励み、家族と暮らす日々。寝子島に居る時とは違って、偽りだらけの生活。
　目を閉じれば思い出す、寝子島での楽しかった日々。
　ドゥーエの騒がしさが、懐かしい。明るくていつも笑顔で、でも心は複雑だった。明るい輪の中に居る事で自分を保っているような、不安定さがあった。
　服部剛の人の好さが嫌いじゃなかった。でも、心の中に深い闇を抱えているようで、放っておけなかった。
　征一郎の不器用さが、可愛らしかった。本当は見た目ほど強くなくて、孤独を寂しいと感じているのに、素直に出せないところがあった。
　礼二の意地悪さが、今では恋しい。飄々としていて、本音を余り表に出さない礼二。けれど本当は情が深くて優しい事を知っていた。
　朧の臆病さから、目が離せなかった。明るく振舞ってはいたけれども、朧は弱い。それを知っているからこそ、彼が今どうしているのかが気になる。
　……愛おしいものが何一つ見つからない日常。この日常を選んだのは、遊琳自身。どんなに後悔しても、いくらあの場所に帰りたいと願っても、全ては後の祭り。
「独りじゃ、息をするしか出来ないってことなのかな」
　呟いた言葉はすぐに空気に溶け、なかった事のように静寂に塗りつぶされる。

　僕が僕でなくなる。
　呼んでいい名前が分からなくなる……。
　遊琳と言う名前が、溶けていく。
　僕の名前は、なあに？
　僕は、だあれ……？