大切なものを自分のせいで失ってしまった事はあるだろうか。
友人に貰ったマグカップ、親に買ってもらった可愛い時計、お気に入りのお店で買った洋服。
自分の責任で失ってしまった時の、後悔と悲しみは数日心の奥に沈殿していたのではないだろうか。
数日どころではなく、今思い出しても辛いというものもあるだろう。
好きなものが突然手元から消えてしまう喪失感は、苦い思い出となって記憶に刻み付けられてしまう。
逆に、昔大切だったのに、今は忘れてしまったものはないだろうか。
何度も読んだお気に入りの絵本に、名前を付けて毎日話しかけていたぬいぐるみ、眠る時にいつも握り締めていたタオルケット。
いつの間にか他に大切なものが増え、今では何処にしまったのかも分からなくなってしまったもの。
きっと、貴方にも一つはあるはず……。
可愛い人と言うのは、遠くから見ても分かるものだ。何と言うか、オーラが普通の人とは違っている。キラキラとした光のようなものを纏っているように見える。
志波 武道の目の前にいる少女もまた、普通とは違ったオーラを纏った飛び切り可愛らしい子だった。道行く人々が必ず振り返るほどの美少女を前に、武道は切れ長の目を細めると、少女と出会った数分前の事を思い出していた。
土曜日の昼下がり、部活に行った帰り道だった。歩道の真ん中に誰かが立っていると言う事は、遠目にも分かった。誰もが少女を避けるように通っており、人々は決まって驚いたような顔をして少女を振り返っては、一瞬だけ足を止め、またすぐに歩き出していた。
武道も街行く人と同じく、少女を避けるように少し距離を取って歩き去ろうとして、横目でチラリと捉えた少女の容姿に思わず振り返った。
他の通行人と、武道がどう違ったのかは分からない。けれど少女は、武道と目が合った瞬間、トテトテと走って来てジャージの裾を掴み、こんな質問をしてきた。
「ねぇ、貴方には、大切なものはある? なくなったら、とっても悲しくなる、そんなもの」
少女は武道の言葉を大人しく待っていた。大きな瞳は真っ直ぐに武道に向けられており、少し照れる。勿論、こんな小さな女の子になにか特別な感情を抱くと言うことはないが。
「あるよー」
伊達メガネを外し、にかっと笑うと少女と視線を合わせるべくしゃがむ。近くで見れば見るほど、少女は人並み外れて可愛らしかった。
「それじゃあ、昔大切だったのに、今はそうじゃないもの、ある?」
なぞなぞの類なのだろうかと悩みながらも、武道は素直に思ったままを答えた。
「んー、どうかなー」
途端に少女が悲しそうな顔になり、武道は慌てた。どうやら、少女の欲しかった答えではなかったようだ。
「貴方にも、あるはずなの。昔、大切だったもの。とっても、とっても大切だったもの」
すぐに忘れてしまうのよ。と、消え入りそうなほど小さな声で呟く。今にも泣き出しそうな顔に、どうしたら良いものかと困り始めた時、少女の小さな手が武道の手をギュっと握った。
「突然失ったものはいつまでも記憶に残る。それなのに、ゆっくりと大切じゃなくなっていったものは、記憶にも残らないの。……私は、覚えているのに。思い出してもらえるのを、待っているのに。ずっとずっと、待ってるのにっ!」
大粒の涙が少女の目から零れ、武道の手に落ちる。その刹那、武道の視界がグニャリと歪んだ。
「大切なものを突然失った時、凄く悲しいように、大切だったのに忘れられていったものだって、凄く悲しいんだよ……」
少女の声が遠ざかって行く。グルグルと回る視界に目を瞑り、目を開いた先は、自分のせいで大切なものが失われた世界だった。
シナリオガイドに志波 武道さんに登場していただきました。
ありがとうございました!
目を開けた先の世界ですが、結論的に言えば白昼夢になります。
思いっきり嘆いたり悲しんだり憤った後で、現実世界に帰って来てもらいます。
大切なものが失われた世界で一番重要なのは、どんな理由で大切なものを失ったにせよ“自分のせいで”失ってしまったと言う部分です。
学校外での出来事になりますので、大人のかたでもお気軽にご参加下さい。
大切なもの
物でも能力でも、名声や人間関係、命あるものでも構いません。
失いかたも、壊れてしまった、失くしてしまった、死んでしまった等、二度と元に戻らない状態となっていればどんな形で失っても構いません。
一番大切なものでなくても構いませんが、「やっぱりないとダメだ」と再確認できる程度に大切なものでお願いします。
今回のお話の趣旨は“大切なものの大切さを再確認しよう”になります。
現実世界に帰ってきて「やっぱりなくても大丈夫かなー」というオチはNGです。
少女
かつて誰かの大切なものだった何かです。
現実世界に帰ってくると、少女は目の前にはいません。
少女が何故こんなことをしているのかは、ガイドに書いてあるとおり、思い出して欲しいからです。
是非キャラクターさんも、かつて大切だったのに忘れてしまった何かを思い出してあげてください。
同じ白昼夢の世界に入り、大切なものを失って悲しむ友人を勇気付けるというアクションも可能です。
その場合はGA推奨になります。
また、既にキャラクター登録されていて、今回のシナリオに不参加のキャラクターさんはリアクションで描写できません。
アクションに書かれていた場合は、マスタリングさせていただきますので、ご注意下さい。