R&R Journey：密林のルーインズ＜後編＞｜リアクション

R&R Journey：密林のルーインズ＜後編＞

　手がかり

「さゆるさんが……」
　駆けるようにして戻ってきた仲間たちは、あまり説明する時間を持たなかった。ただ、さゆるが攫われたということ、おそらく儀式まで間がないだろうことが伝えられ、梨香やグデの顔にも緊張が走る。
　綾花はかたわらの珪の手を強く握ってから、一歩前に出た。
「それで、私に見てほしいものって……？」
「これよ」
　朝衣は古びた二枚のタペストリーを広げる。
　一枚は最初に探索した廃墟で見つけたもので、もう一枚はそこからいくらか離れたところのよく似た廃墟のなかで見つけたものだった。どちらもランダとバロンの石像の間に掲げられていて、同じような四角形を入れ子にした図案――まるで、白と黒の遺跡を上空から見下したかのような幾何学模様である。ただし、二枚はネガとポジのように白の箇所と黒の箇所が反転していた。
　朝衣が指示したのはその布地に散らばるまだらのシミだった。
「一枚目のときはただのシミだと思っていたの。でも二枚目にも同じような箇所にシミがあって……よく見たら字じゃないかしら、って思って」
　梨香がグデを見遣る。グデは首を横に振る。地元民のグデでも、そのシミのかたちに見覚えはないらしい。
「ひとまず、やってみます」
　綾花はタペストリーに手を触れ、＜読破＞を発動させる。
「………………」
「……どう？」
「………………」
　眉間にしわを寄せ、二枚のタペストリーを交互に触れていた綾花は、やがて落胆したように息を吐いた。
「……読めませんでした」
「やっぱりただのシミだったのかしら」
「でも……へんなんです。ちらちらと何か浮かぶ気もするんです。読めそうで読めない……なにか欠けているかんじ……」
　それを聞いた瞬間、朝衣のなかに閃きが起こった。
「待って。もしかして……！」
　朝衣は二枚のタペストリーを重ね合わせ、遥人の手も借りて持ち上げると、この＜時のない村＞を包む薄暮の光に透かし見る。ほとんどの部分は相対する白と黒が重なって灰色に見えるが、一部はそうではなかった。
「やっぱり……！　まだらのシミが重なって浮かび上がる箇所があるわ！」
　朝衣の叫び声に、タペストリーを覗き込んだグデが、はっと目を見開いた。
「これは！　儀式に使われる古代文字です。残念ながら、ワタシは読めませんが……」
　そう言って、期待を込めた目で綾花を見る。綾花は大きく頷いた。

「今度こそ、私なら読めます……！」

　綾花は重ねたタペストリーに手を寄せて、再度＜読破＞を試みる。
　いっとき、静寂が訪れる。
　一同は固唾を飲んで綾花の仕事を見守っていた。
　魔女が儀式をはじめるまで時間はさほどないはずだ。
　このままではさゆるが魔女にさせられてしまうかもしれない。
　なんとしてもランダに対抗するための手段――バロンへ繋がる手がかりが見つかってほしい。

　焦りと祈りが満ちるそこへ――。
　黄色いカナリアが飛び込んできた。
　嘴に『金の鱗』を咥えている。
「ラッセル！　そいつをどこで？」
　豪が呼び掛けたが、カナリアは変身を解くのももどかしい様子で旋回し、皆についてきて、と言っているようにみえる。遺跡のほうへ連れていきたいようだ。
「読めました……！」
　綾花がタペストリーから手を離す。
「ラッセルさん、その鱗、遺跡で見つけたのですね？」
　そうだと言うように旋廻するカナリア。
「行きましょう！　詳しくはそこで話します！　タペストリーも持っていきましょう……！」