R&R Journey：密林のルーインズ＜後編＞｜リアクション

R&R Journey：密林のルーインズ＜後編＞

　探索２～生贄談義

　一方。
　水の確保を目的とした豪、サキリ、イツトリたちは、カナリアになって上空から探索できるラッセルの目も借りて、早々に村に唯一の井戸を発見した。しかし――。
「濁ってる……」
「正直、飲む勇気はねぇな」
　豪とラッセルはがっくりと肩を落とす。
「人は水さえあれば三週間は生きられるって言われてる。でも水がなければ二、三日しかもたない。だから安全な水の確保は最優先事項だったんだけど……」サキリは井戸を覗き込む。「この水では、お腹を壊す危険性の方が高いね。つまり、本当にここには長居できないってことになる」
「魔女はどうしてるんだろうな？」豪が首をひねる。
「わからないね。どこかに隠し井戸があるか、あるいは魔女となると人ではなくなるのかも……」
「あー……異様に若いままだったしなー」ラッセルは遺跡で見たグデの母の顔を思い出す。「＜時のない村＞だけに自分の時も止まってて、食べたり飲んだりしなくても死ななかったりすんのかな」
　魔女ランダの仮面の下の素顔は、若々しく美しい女に見えた。１０年ぶりに会ったグデが一目でわかったくらいだから、当時とあまり面差しに変化はなかったのだろう。
「俺たちはそうはいかない。つまり、水が尽きるときが俺たちの限界ってわけだ……」
　豪は苦虫を噛みつぶしたような顔で、ばりばりと頭を掻く。
　ラッセルも不安が込み上げてきたが、こんなときこそ強がれ、と自分を鼓舞し、
「なら、さっさと聖獣バロンを見つけねーとな。とりあえず閉じ込められたこっち側の鳥たちに聞いてみるわ。俺らよりここを知ってると思うし……聖獣や魔女のことも」
　と、またカナリアになって飛んでいった。

「幸い儂らは『魔女の器』の標的外じゃし、身を守る術もある。鳥の男子（おのこ）に負けず動くとしよう」
　イツトリも、豪とサキリの背を叩いて歩きだす。鳥の男子、とはラッセルのことだろう。
「安全に飲める湧き水は叶わなかったが、『金の鱗』や『聖獣バロンの手がかり』を探すのじゃ」
「そうだな」
　豪は歩きながら村を取り囲む森の方を見る。
「空中の揺らぎからここへやってきたんだから、やはり揺らぎを見つけてそこから出なくてはならないのだろうな……だが見つける方法がわからないし、できればグデの母さんも助けてやりたいよ。このままじゃずっと生贄を求められるだろうしな」
　生贄、という単語に、イツトリがピクリと反応する。
「生贄を、そう悪しざまに疎んでくれるな」
「と言うと？」
「現代人の感覚だと悪に見えるが儂の感覚だと心臓を抉り神へ捧げるのは『神聖』なのじゃよ」
　アステカ呪術の生贄儀式用ナイフの化身たるイツトリは、噛んで含めるようにゆるりと語る。

「善悪の基準など時代地域によって違う。
ここには儂らと違う理があるのかもしれん」

「なるほど……」
　豪は圧倒され頷いた。
　呪物そのものたるイツトリが言うと、すさまじく納得感がある。
「はぁ～それにしても。儂が期待していたのはグロ系魔女だったのじゃが……憑依系魔女の方だとは、残念じゃのう」
「よく分からない残念がり方だよ、イツトリ」
　サキリが苦笑したそのとき、絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
「！？　今のは……」
「三折部さんたちの声じゃないか？」
　豪とサキリは顔を見合わせ、声がした方へ走り出す。

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