R&R Journey：密林のルーインズ＜後編＞｜リアクション

R&R Journey：密林のルーインズ＜後編＞

　儀式

　ねばっこい霧が渦を巻き、白と黒の遺跡の上空から降りてくる。
　気づけば――
　さゆるは、いつかの梨香のように台形型ピラミッド遺跡の最上段にある石台の上に横たわっていた。
　わざとレヤックに捕まってからというもの、さゆるは気を失ったふりをしていた。
　目を閉じながらも意識は保っていたつもりだったが……。
（どうやってこの石段に横たえられたのか、ぜんぜん分からなかったわ。人知を超えた魔術的な力が働いているということかしら……）
　すぐ近くで衣擦れの音がする。
　滔々と紡がれはじめる聞きなれない言葉の詠唱。
　薄目を開け、睫毛の隙間から伺うと、魔女がすぐそばで両腕を天へ掲げて歌うように詠唱しており、魔女の手下たるレヤックたちが距離を置いて取り囲んでいるのがわかった。
（じゅん……）
　さゆるは恋しい相手を思い浮かべ、静かに深く息を吸う。
（これがあたしが狙った瞬間……！）
　さゆるは動く。
　勢いよく跳ね起きたさゆるは、迷うことなく魔女の首に手をかける。
「壊してやるわ、こんな儀式！」
　レヤック達はぎゃっぎゃっと騒いだが、突然のことに動作が鈍った。
　その間にさゆるは、首を絞める手に力を籠める。
「魔女ランダ……あんたのたくらみはこれで終わりよ！」
　刮目吐舌の魔女の仮面の下からは、くぐもったうめき声がした。

　――うぅ……ぐぅう……、く、クク、クハハハハ……！
　ああぁぁ、素晴らしい器だよ、そなたは。
　四人の器のなかで、そなたがもっとも魔女に相応しい。
　闇、悪、邪……そういったものを全身で浴び、浸ってきたね……？
　この世界を破壊したいと、そう願ったことがあるだろう？
　すべてよ滅べと狂乱した夜があるはずだ……！

　首を絞められているというのに、魔女の声ははっきりと響き渡った。
　言葉はやがて歌へと変じてゆく。
「詠唱……！？　――くっ、あぁぁああ！」
　魔女の――グデの母たる身体から、真っ黒な影が立ち上がる。さゆるの頭上までふくらんだそれは、鎌首をもたげるように魔女の器へと襲いかぶさってきた。
「さゆる！」
　影に呑まれるその瞬間、じゅんの声がはっきり聞こえた。
（じゅん……あたしは……！）
　さゆるはグデの母の身体から手を離す。闇が、さゆるのなかに入ってこようとしている。
（あた、しは……！）
　さゆるはぎゅっと目を瞑り、それから大きく刮目した。
「あたしは、あのころのあたしじゃない！　ひとりだったころの……自暴自棄だった時代のあたしなら、あなたの誘惑に乗ったかもしれないわ。でも、今は、じゅんがいる！　変わったのよ、じゅんのおかげで！」

　――なに……！

　いちどはさゆるのなかに入りかけた闇が、激しい勢いで弾きだされる。
　この偉業のためにどれだけの気力を必要としただろう。気の果てたさゆるは、くずおれて倒れる。
「さゆるーーーーっ！！！」
　じゅんの悲鳴と、いくつもの足音がした。
「そこまでだぜ、魔女ランダ！」
　ラッセルの声。仲間たちが遺跡を駆けのぼってくる。
　梨香、綾花、珪、朝衣、遥人、イツトリ、サキリ、じゅん……。
　最後にグデと豪……いや、聖獣バロンが遺跡のてっぺんの舞台に登場する――。

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