薄暮の刻がもうどれほど続いているだろう。
夜が来ない。
出られない。
密林の奥で、空間のゆがみを超えて、未知の遺跡を発見し、消えた
坂内 梨香を見つけて悪しき魔女ランダの手から取り返すことも叶った一行だったが、話はそこでめでたしめでたしとは終わらなかった。
<時のない村>と呼ばれた遺跡周辺の空間から出ることができずにいるのである。
「参ったね。このままじゃジリ貧だ」
サキリ・デイジーカッターがため息をつくと、アラスカ呪術の文様を体中に施した少女は、ふふん、と尊大に笑った。
「儂はノーダメじゃがな」
「イツトリは付喪神だからね……食べなくてももつのか」
イツトリと呼ばれた少女は人ではなくあやかし――サキリがここではない世界で手に入れた生贄儀式用の黒曜石ナイフの付喪神である。闇と呪を本質とするイツトリは、魔女という存在にも近しいといえよう。魔女ランダがしようとしている儀式は『代替わりの儀式』ではないか、と推察したのもイツトリだった。
「魔女は代替わりする。もれいびの女のような力を受け入れられる人間――『魔女の器』を手に入れてな」
その推察を裏付けるかのように、一行は幾度も
悪霊レヤックの襲撃を受けていた。レヤックは付喪神であるイツトリや男性陣には目もくれず、もれいびの女性たちを狙ってくるのだ。
「今のところ退けてはいるけれど悪霊レヤックは頻繁に襲って来るし、
敵の陣地のなかという緊張も半端じゃない。
戦い慣れていない人も多いから、長引くとこっちが不利だね……」
「それこそが魔女の狙いじゃないかしら」
朝鳥 さゆるが、ぼそりと言った。一同は、はっとしてさゆるの方を見る。
さゆるは話を続けた。
「この<時のない村>であたしたちが消耗するのを待つ。そしていい頃合いで『魔女の器』を手に入れ儀式を行う――」
「なるほど。それだと坂内先輩を取り返したとき、魔女にどこか余裕があったのも合点がいく」
頷くサキリに絡みつきながら、イツトリは口の端を歪める。
「サキリ。『待ち』は悪手じゃぞ」
「分かっている。状況を打破して、ここから出るためにも、魔女との正面対決は避けられないだろうね」
「とはいえ、ここはあやつの領域。何か、策がほしいのう。あやつの優位をひっくり返せるような――」
「たしかに。単に倒せばいいという問題でもないしね……なにしろ、
魔女はグデが10年探し求めていたお母さんのようだから――」
ずっと黙っていたガイドの青年・
グデは、ここでようやく顔をあげた。
皆が優しい視線をグデへ送る。グデはそれを見て、深々と頭を下げた。
「はい……お願いしマス……叶うなら、母を、救いたいデス……」
「うむ。こちらから動くべき時が来たな」
イツトリはにやりと笑った。
さて、動くと言ってもどうするべきか――。
「遺跡のてっぺんで魔女でも呼ぶか? おーい、ランダー、とな」
イツトリはこの<時のない村>の中央にそびえる白と黒の台形ピラミッドの方を見遣る。
てっぺんには儀式のための石台がしつらえられている。
そこで魔女は霧の中に溶けるように姿を消したのだ。
「そんなに簡単に行くかしら」
さゆるが首をかしげたそのとき、
綾辻 綾花が小さく手を挙げた。
「あたりをもう少し調べてみませんか?
文字を記したようなものがあれば、私のろっこんで読めるかもしれません。
ほかにもなにか見つかるかも……」
いい案だ、と一同頷く。
「同時に警戒しつつ、だね。悪霊はいつ襲ってくるかわからないし、魔女との戦いも避けられないだろう」
サキリはマチェットを見つめる。
と、そのときだった。
「うぅ……」
気を失って横たわっていた
坂内 梨香が身じろぎし、目を開けたのである。
うっすらとした意識の中で話を聞いていたらしい梨香は、途切れ途切れにこう言った。
「バロン……
聖獣バロンこそが鍵のはず……。この土地の伝承では善と悪は一対……悪を司るのが魔女ランダなら、善を司る聖獣バロンこそが、魔女に対抗する唯一の……」
梨香はやっとの様子で、皆の方へ手を伸ばす。
ゆっくり開いた手の中には、森の中で一行をこの場所へ導いてくれた
金の鱗があった――。
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
サキリ・デイジーカッターさん&イツトリさん、朝鳥さゆるさん、綾辻綾花さん、ガイド登場ありがとうございます!
すこし間が空きましたが、R&R Journey:密林のルーインズ<後編>です。
▼R&R Journey:密林のルーインズ<前編>はこちら
後編からのご参加も大歓迎です~。
シナリオの概要
消えた梨香を探して踏み込んだ密林の中で、
歪んだ空間の先にある<時のない村>へ迷い込んだ一行。
白と黒の台形ピラミッド型遺跡に現れた魔女ランダは、
もれいびの女=『魔女の器』の資格がある坂内梨香をもちいて
『代替わり儀式』をおこなおうとしていたらしい。
魔女の手から梨香を取り戻し、
梨香を連れ戻すと言う第一の目的を達成したかに見えた一行であったが、
<時のない村>から出ることができなくなってしまった……。
魔女ランダは10年前に消えたグデの母であるようだ。
グデは母も救いたいと考えている。
一行は、梨香を連れて戻れるだろうか。
そしてグデの母も救うことはできるのか――。
▼時と場所、あなたの状況
<とき>
ねこぴょん後、同じ年の夏の話になります。(寝子暦1372年8月ごろ)
<場所>
インドネシアにある直径10kmほどの断崖絶壁に囲まれた島、通称【魔女の島】。
島の北側には火山があり、その周囲に手付かずの密林が広がっている。
南側にのみボートを付けられる小さな砂浜がある無人島。
◇前編参加者の方……
後編は、密林の中に隠されていた<時のない村>に
閉じ込められているところからはじまります。
◇後編からの参加者の方……
次の【A】【B】どちらかの状況からご参加いただけます。
【A】気づけば<時のない村>にいて、先に来ていた一行(前編参加者)と合流する。
【B】密林には入らない。ただし<時のない村>にいる人と連絡を取る手段はありません。
例)密林の手前で皆の帰りを待つリンコ・ヘミングウェイと合流する
例)密林に入った人の帰りを寝子島で待っている など
▼世界線について
このシナリオでは、みなさんがひとつの世界線で協力したり交流したりします。
ねこぴょん後のPCさんの職業の状況や環境、人間関係などは反映できない場合もございますがご容赦ください。
▼ろっこんについて
密林の中は特殊な状況のようで、
このシナリオではろっこんやあやかしの能力が使用できます。
(ねこぴょん後もそのままろっこんが使えているままの人もいたり、
消えたと思っていたろっこんが密林の中で使えて驚いたりする人もいます)
▼持ち物について
◇前編参加者の方……
前回のアクションで申告された持ち物は引き続き持っているものとします。
前回書いたもちものは、今回はアクションへの記載は不要です。
◇後編からの参加者の方……
武器や冒険に必要なものなど、準備してから挑むことが可能です。
持っていて不自然でないものを1~2点シナリオで使用できます。
密林の中では電波が繋がらず、スマホなどの通信機器は、通信できなくなります。
<時のない村>の状況と出会う敵
※以下はプレイヤー情報です。
◇<時のない村>の状況
ずっと薄暮で時間があいまい。
村の中央には、白と黒の巨石で出来た台形ピラミッド型の遺跡があります。
遺跡のてっぺんには石台があり、儀式を行う場所であるようです。
遺跡の周りには廃墟のような石造りの住居がありますが人の気配はありません。
村の周りは密林のはずですが、白い霧に覆われていて、
進んでも進んでも<時のない村>に戻ってきてしまいます。
◇密林の中で出会う敵
<悪霊レヤック>
魔女ランダが使役する使い魔たち。
ぎょろぎょろした目玉とむき出しの牙が特徴的な仮面をかぶり、黒っぽいローブを纏っています。
人間の子どもくらいの大きさで、火の玉を飛ばすことができ、
手には「クリス」と呼ばれる剣身が蛇行したインドネシアの伝統的な剣を持っています。
実体はあり、物理攻撃は効くでしょう。
後編ではおもに村を探索中に『魔女の器』になりうるもれいびの女性を攫おうと襲って来ます。
<魔女ランダ>
悪しき魔女。
長い舌が特徴的な禍々しい仮面の下にあったのは10年前に消えたグデの母の顔でした。
魔女は霧に紛れることができるようで本人はなかなか姿を現しませんが
最後には正面から対峙することになるでしょう。
魔女ランダに対抗するには、相対する力が必要そうです……。
NPCなどの説明
R&R Agency
坂内 梨香とリンコ・ヘミングウェイが立ち上げた会社で、
シーサイドタウンの雑居ビルの一室に事務所を置くオカルト事件調査会社。
世界中のフシギな事件や事象を調査している。
坂内 梨香
R&R Agencyのボスで、世界に蔓延る様々なフシギや冒険に興味津々な女性。
未知の超古代遺跡で見つかる。
本調子にはほど遠く、休んでいる状況。
リンコ・ヘミングウェイ
R&R Agencyの仲間で、梨香の右腕。冒険より情報収集や後方支援がメイン。
一度は梨香とともに密林に入ったが、魔女の呪いか、
足に謎の発疹が出て歩けなくなってしまった。
梨香を探しに行きたいものの足が動かず、
泣く泣く島の入り口のボートで後方待機中。
グデ
リンコに代わり、いっしょに密林に入ってくれるガイド。
25歳、影はあるが爽やかな青年。バリ島でゲストハウスを営んでいる。
10年前【魔女の島】で失踪した母親を救いたいと願っている。
その他のNPCについて
NPCを同行することもできます。
特定のマスターが扱うNPCでなければ、基本的にはリアクションでも描写されます。
また、Xキャラクターも登場可能です。
※Xキャラだけで1人分の描写とすることも可能です。
その場合は、PCさん自身は描写がなく、Xキャラだけが描写されます。
Xキャラのみの描写をご希望である旨を、アクションにわかるようにご記入ください。
※Xキャラをご希望の場合は、口調などのキャラ設定をアクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
みなさまのご参加、お待ちしております!