昼でも暗く鬱蒼とした密な森は、少年にとって恐ろしい場所だった。
「母さん……! 母さん……!」
キャアァ、ギャアァと悲鳴のような啼き声が頭上で幾重にも木霊する。
密林に住まう
魔女ランダの伝承が、払っても払っても十五歳の少年の頭に浮かんできた。
ああ、この悲鳴のような声は、魔女の手下の
悪霊レヤックの声だろうか。
「母さん……っ! どこにいるんだっ!」
父のない少年は、母の姿を探して彷徨い歩いた。
母はまるで魔女に取り付かれたかのような虚ろな顔でひとりこの森に入っていったのだ。
そして――消えた。
「母さーんっ!!」
叫んだそのとき、どこからともなく声が聞こえた。
――ここはそなたの来る場所ではない。帰れ、帰れ、帰れ……!
人の声とは思えぬ響きだった。しかし少年はどうしても母を連れ戻したかった。
「いやだ! 母さんを見つけるまでは……!」
声に逆らい密林の奥へ進もうとするも、足がどんどん重くなる。
意識がくらくらし、視界が渦を巻くようにうねって見えた。
見上げれば黒い影がいくつも視界を横切って、少年を追い払おうとしている。
「くそっ、悪霊め……母さんを、返せ……!」
朦朧とした意識のなかで少年は見た。
密林の中に埋もれるように存在する、白と黒の石段が何段にも重なる台形ピラミッド型の建造物。
平らなその頂上で、腕を広げる禍々しき魔女の姿を。
「これがあたしたちが
グデから聞いた【魔女の島】の話よ」
画面の向こうに座る
リンコ・ヘミングウェイはいささか憔悴した様子だった。
「地元の人たちは魔女を恐れていて、島の密林に入ったりしないし、そこで人が消えてもそれは魔女の仕業で片付けられて、誰も探しに行ったりしない。密林の中に遺跡があるなんてハナシ誰も知らない。
その後、グデは気づけば島の南の浜辺にいて、母親は結局見つからなかったそう。遺跡の話をしても、おまえは魔女にたぶらかされたんだ、もう母親は諦めろ、と言われただけだったそうよ」
ミステリアスな話をする彼女の背後には、白い窓枠と南国らしいヤシの木が写っている。
インドネシア。リンコはバリ島のとあるゲストハウスから連絡してきている。
彼女は仕事のパートナーでボスでもある
坂内 梨香と、かの国で休暇を楽しんでいたそうだ。
グデというのは、彼女たちが泊まったゲストハウスのあるじで、25歳の現地の青年だという。
「それで。折り入って話っていうのは?」
寝子島の自分の部屋で、PCの画面越しにリンコの話を聞いていた
龍目 豪は、話の先を予測しつつ尋ねた。
豪が知る梨香は、そんな話を聞いてじっとしている女じゃない。
密林の中に未知の遺跡があるかもしれない、なんて聞いたら、自分の目で確かめようとするに決まっている。
実際、梨香とリンコはそうした。それが数日前の話だそうだ。
「梨香を探してほしいの。密林で消えた梨香を」
密林の中で梨香とリンコは子どもほどの大きさの何ものか――信じたくないが「悪霊」だろうか――の群れに襲われた。
その際、梨香の姿が、目の前で忽然と消えてしまったのだという。
「はぐれたとかじゃない。空間が揺らぐようにして、呑まれた、という感じだったわ。その瞬間、梨香が何かに気づいたように言い残したの」
「『この密林では神魂が使える、寝子島の人たちなら……』って」
遺跡どころではなくなり、リンコは密林から脱出。なにしろ、密林の中では通信機器が全く役に立たなかったのだ。バリ島まで戻り、グデと連絡をとって、すぐさま現地の警察に届け出たが、現場が【魔女の島】だと知るとけんもほろろに突き放され、全く動いてくれないのだという。
「あたしが助けに行きたいのはやまやまだけれど、ただ事じゃない気もしてね。それに……」
リンコは座ったまま、カメラを自らの脚に向けた。
ふくらはぎから太ももにかけて、白い包帯が巻かれている。
その包帯を剥ぐと、真っ赤に爛れた皮膚が露出した。
「この有様よ。魔女の呪い? は、バカバカしい、とは思うけれど、森を歩ける状態じゃなくて」
かわりに、と、カメラを向けた先に、浅黒い肌の青年が立っていた。
「グデが、ガイドを務めてくれるわ」
グデと紹介された青年は両手を合わせて頭を下げる。
背が高く爽やかな風貌であったが、どこか翳のある雰囲気の青年だった。
「魔女の島、誰も行きたがらない。だから、ワタシ、案内する。
リカさんが消えたの、母のときに似てる。
アナタたちがリカさん、見つけたら、ワタシの母のことも、わかるかもしれない」
リンコの憔悴ぶりや、グデの真剣な表情からは、嘘や冗談は感じ取れなかった。
「大変なことになってるんだな。俺で力になれるのか?」
豪が尋ねると、もちろん、とリンコは言った。
ほかにも何人か声を掛けた。報酬は弾む。
チャーター便も手配したから、すぐに飛んできてほしい、と。
「――なら、いくか! 南国の密林へ!」
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
龍目 豪さんガイド登場ありがとうございます!
ご参加いただける場合は、ガイドに関わらず自由にアクションをおかけください。
さて、このシナリオでは久々に「オカルト事件調査会社R&R Agency」から、梨香とリンコが登場します。
彼女たちがいざなう冒険の舞台は赤道直下の南国・インドネシアの、とある島。
密林と伝承が色濃く残る【魔女の島】です。
R&R Journeyは前後編だけで完結する冒険モノです。
いっしょに南国の密林に冒険に出てみませんか?
シナリオの概要
「島の密林の中には、未知の超古代遺跡が眠っているかもしれない」
その密林には、悪霊を従えた魔女ランダが住まうという伝説があり、
人間は決して立ち入ってはいけないそうだ――。
十年前、この禁断の島で行方不明になった母を探して密林に入った青年・グデは、
森の奥で悪霊に襲われ命からがら逃げる途中で、不思議な遺跡を見たという。
母は見つからず、天涯孤独となったグデは
それから必死に金をため、バリ島でゲストハウスを営むようになる。
休暇でインドネシアを訪れた梨香とリンコは、グデのゲストハウスに泊まり、たまたま話を聞く。
未知の遺跡への興味から密林へと足を踏み入れたふたりだったが
密林の中で【悪霊】に襲われ、リンコの目の前で梨香の姿はかき消えてしまった。
足に異変を感じつつも密林から脱出したリンコは、
【魔女の島】には神魂に似た奇妙な力が働いていると考え、“あなた”に助けを求めた。
「密林に消えた梨香を探し出してほしい」、と。
▼時と場所、あなたの状況
<とき>
ねこぴょん後、同じ年の夏の話になります。(寝子暦1372年8月ごろ)
<場所>
インドネシアにある直径10kmほどの断崖絶壁に囲まれた島、通称【魔女の島】。
島の北側には火山があり、その周囲に手付かずの密林が広がっている。
南側にのみボートを付けられる小さな砂浜がある。
砂浜の周りに数軒ほど集落のあとはあるが、いまは住民はいない。
シナリオのスタート地点は、砂浜側の密林の入り口。
時刻は、昼ごろです。
<あなたは>
・リンコから連絡を貰い、リンコが手配したチャーター機で日本からやってきた
・友人などから状況を聞き協力することにした
・梨香より未知の遺跡に興味がある
・たまたまインドネシアに旅行に来ていて話を聞いた
などの状況で、この探索に加わることになりました。
▼世界線について
このシナリオでは、みなさんがひとつの世界線で協力したり交流したりします。
ねこぴょん後のPCさんの職業の状況や環境、人間関係などは反映できない場合もございますがご容赦ください。
▼ろっこんについて
密林の中は特殊な状況のようで、
このシナリオではろっこんやあやかしの能力が使用できます。
(ねこぴょん後もそのままろっこんが使えているままの人もいたり、
消えたと思っていたろっこんが密林の中で使えて驚いたりする人もいます)
▼持ち物について
武器や冒険に必要なものなど、準備してから挑むことが可能です。
持っていて不自然でないものを1~2点シナリオで使用できます。
密林の中では電波が繋がらず、スマホなどの通信機器は、通信できなくなります。
▼アクションについて
・密林探索に参加することになった事情
・もちもの
・ろっこんや能力を使うかどうか
・どのように行動するか(もちものやろっこんをどう使うか)
・密林を探索したり、敵に出会ったときの反応
など、自由にアクションを書いてください。
密林の状況と出会う敵
◇密林の状況
いわゆる熱帯雨林で、ヤシの木やシダ植物などが生い茂る豊かな森。
真夏の気候ですが、覆い茂る葉で森のなかは薄暗く、涼しく感じます。
密林の中では鳥やサルなどの動物の声がして、時折ガサガサと木が揺れたり不気味です。
トラやゾウなどはいないようですが、大きな動物らしき影やキラキラした毛をみつけることはあります。
◇密林の中で出会う敵
※プレイヤー情報です(キャラクターはまだ知りません)
<悪霊レヤック>
魔女ランダが使役する使い魔。
ぎょろぎょろした目玉とむき出しの牙が特徴的な仮面をかぶり、黒っぽいローブを纏っている。
人間の子どもくらいの大きさで、火の玉を飛ばすことができる。
手には「クリス」と呼ばれる剣身が蛇行したインドネシアの伝統的な剣を持っている。
悪霊は複数いて、木と木の間を飛び交う身軽な動きで、
剣や火の玉を繰り出して、侵入者に襲い掛かってくる。
実体はあり、物理攻撃は効く。
<魔女ランダ>
悪しき魔女。
腰まで届きそうな長い舌が特徴的な禍々しい仮面と、長い爪が特徴。
人々に呪いをかけて病気にさせたり、取り憑いて人を操る黒魔術「左手の魔法」を使うという。
森の奥に潜んでいて基本的には姿を現さないが、
手下である悪霊たちを倒せば出てくるかもしれない。
NPCなどの説明
R&R Agency
坂内 梨香とリンコ・ヘミングウェイが立ち上げた会社で、
シーサイドタウンの雑居ビルの一室に事務所を置くオカルト事件調査会社。
世界中のフシギな事件や事象を調査している。
坂内 梨香
R&R Agencyのボスで、世界に蔓延る様々なフシギや冒険に興味津々。
未知の超古代遺跡に惹かれて密林に入ったが、姿が消えてしまった。
行方不明になってもう5日、命も危ぶまれる状況。
地元の人たちは呪いを恐れて【魔女の島】へ行きたがらず捜索できていない。
はやく見つけてあげたい。
リンコ・ヘミングウェイ
R&R Agencyの仲間で、梨香の右腕。冒険より情報収集や後方支援がメイン。
一度は梨香とともに密林に入ったが、魔女の呪いか、
足に謎の発疹が出て歩けなくなってしまった。
梨香を探しに行きたいものの足が動かず、
泣く泣く島の入り口のボートで後方待機。
グデ
リンコに代わり、いっしょに密林に入ってくれるガイド。
25歳、影はあるが爽やかな青年。バリ島でゲストハウスを営んでいる。
10年前、母親が【魔女の島】で失踪。
探しに行ったグデは、密林の中で迷い、謎の遺跡を見たが、
幻覚だと誰にも信じて貰えず、母も戻ってこなかった。
今回、梨香探索のガイドを引き受けた背景には、自分の母を見つけたい、という思いもある。
その他のNPCについて
NPCを同行することもできます。
特定のマスターが扱うNPCでなければ、基本的にはリアクションでも描写されます。
また、Xキャラクターも登場可能です。
※Xキャラだけで1人分の描写とすることも可能です。
その場合は、PCさん自身は描写がなく、Xキャラだけが描写されます。
Xキャラのみの描写をご希望である旨を、アクションにわかるようにご記入ください。
※Xキャラをご希望の場合は、口調などのキャラ設定をアクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
前編の結果によって、後編の状況も変わってくる予定です。
みなさまのご参加、お待ちしております!