R&R Journey：密林のルーインズ＜後編＞｜リアクション

R&R Journey：密林のルーインズ＜後編＞

　プロローグ～閉じ込められた人々

「しっかりしろ！」
　龍目豪が意識を取り戻した坂内梨香の手を握る。
　――ここは＜時のない村＞。密林の奥で空間のゆらぎに飛び込んだ一行は、白と黒の台形ピラミッド型遺跡がある村へ閉じ込められてしまっていた。行方知れずになっていた梨香のことは見つけたが、魔女ランダの正体は１０年前に密林に消えた地元の青年・グデの母であったことを知った一行は、この村から脱出するという目的に加え、グデの母も救えればと願っている。

「梨香さん、まずは水を飲むといい。ゆっくりな」

　豪は梨香の背を支えて起こし、水筒の水をカップに注いで飲ませる。
　梨香が喉を鳴らして水を飲み干す。豪はその姿を見てほっとする。かなり消耗はしているようだが水を飲む力があるなら、きっと回復してくるだろう。
「梨香さん、落ち着いてからでいいから教えてくれ。俺たちはこの鱗をたどってここへやってきたんだ。梨香さんも鱗を辿ってここに来たのか？」
「いえ、これはこの村に来てから見つけたものよ」
「村の中で……。ということは、バロンはここにいるのか？」
「……ごめんなさい、わからないの」
　梨香はゆるゆると首を振る。
「この鱗を拾った直後に襲われて、そこから記憶がないの。ただ……夢を見た気がして。真っ白い毛並みの大きな獅子の夢……どこかに隠されているような気がした……」
「隠されている？　呼ぶ方法とかないのか？」
　わからない、と首を振る梨香。
「ただ魔女ランダがいるなら、聖獣バロンも、と考えるのがしっくりくるのよ。この地の伝承ではどちらか片方だけというのは考えにくい。悪と善とは常にともに存在する……そうよね？」
　梨香がグデに尋ねると、グデは頷く。
「ハイ、それが自然かと……」
「おーい、バロンー！！　いるなら出てこいー！」
　イツトリが戯れぎみにバロンを呼んでみるが、あたりはしんとしたままだ。
「さすがに、ことはそう単純じゃないんじゃないかな」
　サキリ・デイジーカッターが苦笑いする。
「単純ではないけれど……『金の鱗』が何かのヒントではあるのだろう。預かっても？」
「かまわないわ」
　サキリは梨香から預かった金の鱗を指でつまんで眺めていた。
「滾ってきたなぁ……」
　桜井ラッセルは武者震いするように体を震わせる。かつて幾度も遭遇した事件やもれいびの感覚が戻ってきた気がして、半笑いで自分を奮い立たせる。
「ひとまずこのあたりを探索してみようぜ。バロンもそうだが、水とか食糧とかも必要だろ？」
「そうですね……」
　綾辻綾花は、隣に座る早川珪と視線を合わせ、それから皆を見回して言う。
「文字のあるものがあれば私が読みます。なにか見つけたら教えてください。あの……でもそのまえに」
　腹ごしらえをして力をつけませんか、と綾花がリュックから取り出したのは、何冊かの文庫本。本は「おいしいパン」とか「チョコレート」とか「お水」などというタイトルである。
　腹ごしらえと言っているのに本とはこれ如何に、と皆が不思議に思っていると、綾花はろっこんを解いて、本を元のパンやチョコレートや水などの食べ物に戻していった。
「私のろっこんは文字を読むだけじゃなくて、物を本に変えることも出来るんです。解除もできるので、こうしてかさばるものを本にして持ち歩くことが可能で、便利なんですよ」
　ラッセルや豪もサバイバルに備えて、食糧や水などを持ってきていたが、じつは一番の荷物持ちは綾花だったというわけだ。
　こうして一行は、それぞれが持ってきた食糧を出しあって食事をし、英気を養った。
　もちろんすべてを食べ尽くすようなことはせず、残ったものはまた綾花が本にしておく。
　腹が満ちたことで、みんなの瞳に力が戻ってきていた。
「よし、じゃあ探検をはじめようか」
　探検部部長だった豪が自然と采配する。
「綾辻は早川先生と一緒に、ここで梨香さんと待機しててもらいたい。梨香さんはまだ動かない方がいいだろうし、綾辻の能力は鍵になる可能性は高いからどこにいるか分かるようにしていたほうが良いだろう。早川先生、ふたりをお願いしていいか？」
「僕には君たちみたいな力はないけど、善処するよ」
　綾花が添えてきた手を握り返して、珪が頷く。
　豪はそれに頷き返し、残りのメンバーを見遣る。
「俺らは手分けして村の中を見て回ってみよう。レヤックがいつ襲って来るかわからないから、出来るだけ一人にはならないように。――なにかあればここに戻ってきてくれ」

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