【集結。リア充見守り隊、二年連合】

　宇佐見 望月は燻っていた。
「武道ちゃん、こいつは一体どーゆーことなんだ？」
　志波 武道にたかろう、もとい一緒に夜店を巡ろうとしていたのだが。
「財布に千円しかねぇって……」
　望月は呆れ返っていた。
　この盛大な祭りに臨むにあたり、所持金千円だと？
「小学生か！？」
　望月のツッコミに軽いノリで武道は返した。

「ごっめーん☆　やんごとなき事情で俺、ただいま金欠中！　てへぺろ♪」
　笑顔の武道の目尻に涙が浮かぶ。心なしか体も震えている。
　――理由は聞かないほうがいいだろう。
「無理はするなよ、武道？」
　
　そこへ親友の高梨 煉が声を掛ける。
　浴衣のせいか、いつもより男前度がグンと上がっている煉に、武道はふざけて擦り寄っていく。
「おっとこまえのれんちゃーん！　あのねぇー？　ブドー、今ぁ～お金ないのー☆　でもぉ～今スグとぉ～ってもクレープ食べたァ～い気分♪　ねぇ～、お・も・て・な・し、してぇ～？」
「却下だ」
　煉、即答だった。
「今日は武道の金欠っぷりを弄ると決めているんだ」
　煉の爽やかな笑顔が浴衣と相まってよく映える。
「うわー、れんちゃん、カッコイイー」
　武道は思わず棒読みで発言した。
「おい、志波。発案主のお前がシャキっとしてもらわないと困るのだが？」
　凛と武人めいた雰囲気を醸し出す少女、楪 櫻は思わず眉を潜める。
「浮かれる気持ちも分かるが……、我々がここにいる目的は別だ。違うか？」
「……ああ、そうだな」
　武道の表情からおちゃらけたオーラが消失していく。
　普段とは違う真剣な武道を前に、協力者は思わず息を飲む。
「今日は集まってくれてありがとう。ねこったーは見たか？」
　この場に集まった小津 秋吉、冴木 竜司、安本 マコト、ロベルト・エメリヤノフは一様に頷く。
　煉と楪は言わずもがな、という顔付きだ。
　ただひとり、状況を把握出来ていない望月だけがポカーンと口を開けて突っ立っている。
「また神魂か、とか言いたくなるが、せっかくの祭りに水を差しそうな輩が出ないか、俺たち２年が後輩のラブや友情を見守ってやりたいんだ」
　武道の願いに小津は思い切って前に出て意見を述べる。

「なんか先輩！って感じでいいよね。それに後輩がせっかくのお祭りで万が一困ったことになったらって思うとちょっと悲しいから、おれも見回りお手伝いさせてもらおう！」
　小津は腕を組んでうんうんと納得する。
「可愛い後輩たちのために見回りとか面白そうじゃーん？」

　浴衣姿の安本もノリよく賛意を示す。
「別に七夕までに彼女出来なくて一人だと暇過ぎてやること無かったから参加したわけじゃないしー？　かといって後輩たちをカッコイイとこ見せて『ちょっとあの先輩マジでヤバくない？』って思われたいから参加したわけじゃないしーマジでチョーマジで」
「あの、漏れてる、100％願望ダダ漏れだから」
　ロベルトは思わずフォローを入れてしまった。
　気を取り直して、武道に意思表示するロベルト。
「僕も見守ってあげたいと思う。そういえば最近、一年でそわそわしていたり、いい雰囲気だったりする人もいるね。夏祭りっていうのは大事なイベントだし、一年のその一代イベント、壊さないようにしたげたいな」
　そして小津に近付くとガッチリ抱きつき始めた。
「おっ小津いんじゃーん！　一緒にいこう！」
　ロベルトのマジキチスマイル！
　小津は喜んでいる！
「やったー、ロベルト君、一緒にいこう！！　ほとんど初対面の人だから心細かったよー！」
　ハグハグぎゅっぎゅっと２人は熱烈に抱き合っていた。
ロベルト「いくか」
小　津　「いこう」
２人同時「いこう」
　そういうことになった。
　２人のイチャコラを涼しげにスルーした楪。
「こういう祭の時に浮かれてトラブルを起こしてしまったりする奴が出る可能性はあるだろう。ましてや神魂の影響で空を飛ぶなどと……、羽目を外し過ぎるような奴は必ずいるな。トラブルを避けるために見回りをするというのはいい案だと思う。私も微力ながら助太刀しよう」
「櫻ちゃんがそう言ってくれると心強いな……。れんちゃんも竜司くんも頼りにしてるぞ」
　いつになく思い詰めた様子の武道に、浴衣姿の冴木は自分に起きた不幸をそっちのけで心配する。

「志波、大丈夫か？　俺は愛しのまゆ先生と七夕デートしようと自宅前までお誘いに行ったら、『竜司君、ハウス（笑顔）』と振られたぜ。だが、そこまでシリアスにならなかったがな……？」
「もしかして、弟のことが絡んでいるからか？」
　煉の指摘に武道の眉尻がぴくっと動く。
「妹の初デートを他の奴らにぶち壊されるのは兄として放って置けないし、なんたって妹のお相手は武道の弟だからな」
　その煉の言葉で、協力者たちは武道のシリアスモードの原因が掴めた。
「そう！　れんちゃんの妹の彩葉ちゃんのデート相手は！　俺の愛しい弟、たー坊なのさー！」
　この瞬間、武道のシリアスが終焉を迎えた。
　安定のブラコン！
「たー坊達のため、そしてたー坊と同級生の皆の為に！　色々不審な噂というかボッチーズな動きもあるっぽいから、二年の有志で後輩たちを見守りたいんだ！」
「結局、弟絡みってわけだな……」
　楪、これには思わず苦笑い。
「ボッチーズってなんて名前からして心の狭そうな奴らだな。ぼっちなのに複数形だし」
　煉は違う部分で苦笑いしていた。
　そしてそのまま言葉を繋げる。
「しかし、武道が弟の傍に付いていかないのは少し意外だったな」
「噂通りなら弟さんをストーキングするはずだよね。まるで僕が、ってげふんげふん……」
　ロベルトの発言は、楪の刺すような視線で言い止められた。
「たー坊が彩葉ちゃんとデートしてる。これはおにーちゃん、自分のことのように嬉しい。けど俺、その場にいたら茶化したくなっちゃうし、２人の雰囲気を尊重するためにも、たー坊の前にはいかないようにするって決めたんだ」
　武道の並々ならぬ決意に、協力者（＋望月）は息を飲んだ。
　そして一同は心の中で突っ込んだ。
（大人になったな……！！）
「その分、れんちゃんや皆……。なにかあったときはよろしく頼む」
　武道は真摯に頭を深々と下げた。
　煉はトントンと胸を叩いてみせる。
「なんだかんだいいつつ弟を大事に想う、いい兄なんだよな、武道って。頼ってくれた分、こっちもちゃんと仕事しないとな」
「俺様も手伝う！」
　望月も話に乗っかってきた。
「って言っても、夜店巡りながら不穏な輩がいないか確認するだけだけどよ……。武道ちゃんの兄弟愛、すげーわかるぜ……！」
　望月も日頃から姪っ子を猫可愛がりする身なので、彼の考えに共感したようだ。
「あれ？　ちょっと待って？」
　小津が何かに気が付いたらしい。
「武道くんの弟さんと煉くんの妹さんが交際しているということは……」
　あ、とその場の面子も気が付いたようだ。
「将来、もしかしたら２人が結婚して、武道くんと煉くんは義理の兄弟になる可能性があるってことだよね？」
　この瞬間、武道の顔が急に活き活きとしだした！
「れんちゃん！　今から俺のことを『おにーちゃん』って呼んでいいのよ？」
　武道の期待に満ちた視線に対し、煉は笑顔でこう返した。
「却下だ」
　やはり即答だった。


　小津 秋吉：【二年連合】上空警戒班へ
　冴木 竜司：【二年連合】地上見回り班へ
　志波 武道：【二年連合】リーダー、地上見回り班へ
　高梨 煉：【二年連合】上空警戒班へ
　安本 マコト：【二年連合】地上見回り班へ
　楪 櫻：【二年連合】地上見回り班へ
　ロベルト・エメリヤノフ：【二年連合】上空警戒班へ
　宇佐見 望月：助っ人、見回りがてら夜店を食い荒らそうと行動開始

　全員：連絡先を交換、即時対応できるように警戒開始






～間幕：祭りにまつわる会話劇～

楪「しかし、志波……、何故浴衣で来ない？　私は志波に言われて浴衣を着てきたのだが？」
武道「ごっめーん☆　ほら、金欠で浴衣が新調できなくて！　私服で許して☆」
ロベルト「僕も浴衣ないから普段着ィ！　ＹＯＹＯチェケチェケラッチョ！」
楪「お前は少し黙ってくれないか」
ロベルト「アッハイ」
武道「ロベルトくんドンマイ☆　そして櫻ちゃん、すごくキレイ！」
楪「う……、何というか、やはり少しばかり気恥ずかしいな……」
安本「えー、チョー似合う！　浴衣美人ってヤバくね？　マジでチョー思うんだけど！」
楪「浴衣を着るのは何も初めてではないというのに、何故にこうも気恥ずかしいのか……」
冴木「幼女の浴衣も素晴らしいが、楪の色気も素晴らしいな！」
楪「おい、何を言い出すんだ、まったく――！」
小津「おっと、待ってよ、楪さん！　はぐれるよ……って、うなじが綺麗だなぁ」
男性陣「「小津、それには全力で同意する」」
楪「お前ら――！」

「……えぇい、まじまじと見るんじゃない！」
武道「か、各自、持ち場に付いてー！　解☆散！」
男性陣「「ラジャー！！」」
楪「おい、逃げるな！　……行ってしまったか。まぁ、たまには騒がしいのも、悪くないかもな……？」