【七夕】飛べ、天の川！　ラブラブ♪ランデブー！｜リアクション

【七夕】飛べ、天の川！　ラブラブ♪ランデブー！

【神魂の宿り方】

　時は七夕ゆかた祭り前日。
　寝子島町子供会は九夜山展望台へやってきていた。
　寝子島の幼児と小学生たちは、思い思いの七夕飾りを持参。
　竹に飾り付けるのを今か今かとウズウズしている様子。
「はーい、みんな！　竹は逃げないよ、もう少しいい子にしてておくれよ！」
「「はぁーい！」」
　引率者の１人、この企画の提案者もある宇佐見満月は満面の笑みで子供たちに声を掛ける。
　旧商店街自治会の面々に声を掛け、地域交流の一環として主催者である町役場に働きかけたのだ。
　満月はこの他にも「短冊釣り下げるなら、サクラの短冊仕込むべきじゃないかい？」と主張。
　３枚ほど先んじて短冊を運営側から入手する用意周到ぶりである。
「爺さんたち、準備はいいかい？」
「もちろんじゃとも！」
　爺レッドこと梅川照喜が快活に答えた。
「さぁ、子供たち。竹を台に横倒しにしたから、どんどん飾り付けてくれ」
　爺ブルーこと竹山輝一は今日もクールに微笑んだ。
「飾り終えたらお菓子をあげるぞ！　さぁ、みんな頑張ろう！」
　お金持ちな爺イエローこと松田晃正の発破によって、子供たちの目の色が急に変わった。
「チャオ♪　あまり遠くに行っちゃだめだよ」
　教育者らしく、あちらこちらへ走り回る子供たちの面倒を率先してみるのは爺グリーンこと我らが校長、雨宮草太郎。
「いやー、寝子島ふぁんた爺ズの皆さんが来てくれて、子供たちも喜んでるねぇ！」
　満月も誘って良かったと大満足。
　ふぁんた爺ズ、こういった営業で着実に知名度を上げていることを彼女は小耳に挟んでいたのだ。
　彼らがいる限り、子供たちの安全と企画の成功は揺るぎないものになるであろう。
「さて、いよいよサクラの短冊さね♪」
　寝子島高校芸術科ＯＧ、書道専攻の満月は当然のように書道道具一式を持参していた。
　硯に墨を摩り、精神統一。
　周囲の喧騒がふっと消える。
　その瞬間、満月の目がカッと見開かれ、サラサラと見事な筆捌きを披露する。
「ま、１枚目はベタな内容かねぇ」
　その内容は。

『瀬をはやみ岩にせかるる滝川の　われても末にあはんとぞ思ふ』

　百人一首77番、崇徳院（出典：『詞花集』恋・228番）の和歌だ。
『川の瀬の流れが速く、岩にせき止められた急流が２つに分かれる。
　しかしまた１つになるように、愛しいあの人と今は分かれても、
　いつかはきっと再会しようと思っている』
　という意訳の歌だ。
　織姫と彦星のように、当日、恋人同士の逢瀬には相応しい一首といえよう。
　続けて満月は２枚目に筆を走らせる。

『今はとて天の羽衣着る折ぞ　君をあはれと思ひ出でける』

　有名な『竹取物語』の最後、かぐや姫が月へ旅立つ際に想いを寄せていた帝へ送った一首だ。
『今はお別れと天の羽衣を着るときになってはじめて、あなた様をしみじみ思い出します』
　羽衣を着て人の感情を忘れる直前に、帝への想いに気付くという内容である。
　竹にちなんで詠んだつもりなのだが、図らずしも祭りで生まれる悲恋を予兆するかのようだ。
「ふむ……、色々書いていると、自分でも詠んでみたくなるもんさねぇ。ここは１つ、詠んでみようかねぇ？」
　満月、ここ一番の集中力を発揮し、爺ズが思わず「タッピツ！　スゴイ！」とカタコト言葉で驚いてしまうほどの行書を披露した。

『秘めたるもあからさまにも思うさま　笹のきせきに今こいねがう』

『この竹に吊される短冊の想いを秘める在り方も、ついちょっと（堂々と）思う様子も、
　私はこの竹の笹の流れる軌跡のように二度とない奇跡として乞い願う（恋願う）のです』

「……こんな所かねぇ？」
　満足げに彼女は、竹の頂辺に位置する場所へ括り付けた。
　そこでようやく、子供たちの注目の的になっていることに気が付く満月。
「手習いで何か書きたい人はこっちにおいで。文字が綺麗に見えるコツくらいなら、教えてあげられるさね」
　こうして突発的に青空習字教室が開かれることに。

　この時、何処からともなく舞い降りた不思議な光の玉が、彼女の短冊３枚に吸い込まれていくのを誰も目撃していない……。

【状況更新】
　神魂が短冊に宿りました！
　竹取物語の歌により、願いを釣り下げると飛べるようになりました！
　崇徳院の歌により、恋愛の歌で飛行性能が向上するギミックが組み込まれました！
　満月の歌により、帰還時に夢だと錯覚する効果を獲得しました！

　結論：だいたい満月さんのせい！