これはパンダですか？　いいえ、ドラゴンです。｜リアクション

これはパンダですか？　いいえ、ドラゴンです。

【伐採はどうなってますか？　こんな感じです】

　こちらは伐採班。
　戦闘の最中も黙々と手頃な竹を伐採していた。
「……しかし騒がしいですね。作業に集中できません。バイトの本筋は竹の伐採だということを忘れてるのでしょうか？」
　霧の向こうの戦闘班に苛立つ神無月。
「我慢なりません。私、口頭注意してきます」
　そのまま神無月は戦闘班のもとへ注意を促しに向かっていった。
「やれやれ。もう少し気を緩めてもいいと思うのだが」
　霧の中に消えていく神無月の後ろ姿に、旅鴉はそう声を投げ掛けた。
「早瀬、君もさっきからあちらが気になるようだね？」
　旅鴉の問い掛けに、バツが悪そうに目を逸らす早瀬。
　彼の作業は完全に止まり、ボーッと霧の中で行われているろっこんの輝きや殴打の音に耳を澄ませ、目を凝らしていた。
「……ぶっちゃけ、俺にもあんな力が欲しいなぁって思って。俺、この島の落神伝説に興味あるんだ。もれいびのことも、古い文献でちらっと見たことがある」
「ふむ、早瀬は目の前のことが夢か幻ではないと認識出来ているわけだ」
「ああ、これは現実で、伝説は本当だった。違うか、あんた？」
「旅鴉月詠だ。好きなように呼んでくれて構わない。確かに『ありえない事などない』し、『世は不可思議に満ちている』から。伝説の１つや２つ、実際してても驚きはしないな」
「そんなもんなのかねぇ？　俺たちのフツウ、もれいびのフツウ、落神様のフツウ。……今、俺の前で起こってるのは『もれいびのフツウ』なのかねぇ……？」
「さてね？　フツウと言っても様々だ。それより手が止まっているぞ、早瀬」
　旅鴉の注意に、慌てて作業に戻る早瀬。
「……ないもの強請っても仕方ない、か……。ま、事の終わりを見届けておこう……」
　早瀬は霧の向こうの戦闘をただ傍観していた。
　旅鴉はというと、長短共に良質な竹を鋸で伐採しスケッチブックに自身のろっこん『絵空事』で吸い取り封印する作業を繰り返していた。
　スケッチブックにはパンドラのラフ画が描かれており、竹が封印されるたびにパンドラの周囲に竹が生い茂っていった。
「ふむ……、早瀬が近くにいるにも関わらず、絵の吸引力（物理）が衰えないな」
　最初は霧のせいかと思っていたが、早瀬が旅鴉の吸引場面を目撃してしまってからは、彼女は確信した。
「すげぇ！　旅鴉、あんたももれいびなのか！？」
　興奮する早瀬。対して旅鴉は何やら思案顔。
「……そうか、君はまだ、気が付いていないのか」
「は？？」
「……いや、何でもない。作業を続けよう」
　狐につままれた顔で早瀬が持ち場に戻っていく。
　その背を旅鴉はジッと見詰めている。
「私のろっこんが早瀬に見られても問題なく発動した。つまり、彼はもれいび。それもまだ無自覚の……」
　やれやれ、と嘆息を吐くと、彼女は再び鋸を振るうのだった。