【もしかしてピンチですか？　色々とお察し下さい】

（刀くんが食べられちゃった！！）
　小山内、ショックで虚空にラインを描く手が止まってしまう。
　想い人を助けられなかったことが、彼女の心に動揺をもたらす。
「海ちゃん、大丈夫だって！　刀くん、最近は不憫属性が板に付いてきているし、仲間が力を合わせれば絶対助けられるよ！」
　対して、相棒・桜庭は実に楽観的であった。
「それじゃ海ちゃん、例の作戦、いこっか！」
『わかった　まどかちゃん、きをつけてね？』
　桜庭はスケボーを抱えて、足場の悪い場所で転ぶことを恐れずにダッシュ！
　こうすることで桜庭のろっこん『ブレイブハート』が発動し、彼女の天運が青天井で急増するのだ。
　と、ここでパンドラ、今まで以上の雄叫びをあげて桜庭へ突進！
「くるぞ、あれは多分、大振りの逆鱗パンチだ！！」
　八神が桜庭へ注意を促すが、ろっこん発動のためにもノーガードで桜庭は突撃！
　繰り出されるパンドラの猛烈な拳の風圧が周囲の竹を揺らす！
　だが桜庭、勢いよく地面を蹴って飛び上がりパンチを回避！
　ジャストタイミングでスケボーに飛び乗り、小山内の描いたラインへ『着地』した。
「いくよ、ろっこん式カタパルト！」
『いまだよ、まどかちゃん！　とんで！』
　小山内のろっこん『アクセラレイトライン』で描いたラインの上に乗った物体は、そのラインに沿って加速する。
　そしてそのラインは空中にも描けるため、桜庭はスケボーを操りながら小山内の描いたラインに次々と乗っかっていく。
　極めて危険な博打であるが、これも桜庭の天運上昇の効果があるからこそ為し得る作戦だ。
「よーし！　この速度なら行ける！　パンドラ、よく聞けー！」
　桜庭はカットバックドロップターンを華麗に決めながら、パンドラの頭上へ急降下！
　体の捻りを加えてキリモミ状態で突っ込んでいく。
　仰向けになったパンドラは、パンチを繰り出した際にバランスを崩して起き上がれない。
　幸運にも最大の攻撃チャンスだ！！
「まずボクのパワーは３７！　両手で７４だ！　そして！　いつもの３倍のジャンプが加わって３倍！　２２２パワー！　そして、４倍の回転を加えれば！　パンドラ！　お前のパワーを上回る！　８８８パワーだァァア！」
『まどかちゃん、そのりろんはちょとちがうとおもう』
　呆れ顔の小山内もろっこんで小石をお腹にぶつけて、丸呑みされた人を吐き出させようと試みる。
「円ちゃん、その理論だと円ちゃんの手首が折れる展開のような！？　あわわ、そうならないようにお祈りしなきゃ！！」
　維都月がろっこんで桜庭の成功を祈る。
　桜庭、ろっこん相乗効果で激運発動！
　スケボーを空中で投げ捨てると、革手袋を嵌めた拳をパンドラの胸元の傷に叩き付けた！
　咄嗟に防御を試みるパンドラだが、速度が乗っている一撃の前ではその防御は容易く貫通されてしまう。
　結果、重力と加速と桜庭の全体重が乗った一撃が、パンドラの身体に突き刺さるようにヒット！！
　くの字に折れ曲がるパンドラの身体、だが、まだ中の人が出るまでもうひと押し足りない！
「なんで！？　ボクの幸運で吐き出させられると思ったのに！？」
「なら、俺の出番だな……」
　如月、再び『蒼穹』発動。
　そのまま人命救助（物理）を敢行する！
「オラアァッ！！」
　かつんっ。
　青い輝きは急速にしぼんでいき、拳はウロコに当たると軽く弱々しい音を立てた。
「……こりゃ、どういうことだ？　ろっこんが効かねぇ……？」
「如月くん、調子悪いのー？　俺がろっこんでパンドラの内臓を調べて弱点発見しちゃうよー」
「おい、初島、そうじゃない。ろっこんが発動しねぇ……」
「そんなわけないよねー。霧のおかげで『ひと』の目はごまかせているようだしー」
　起き上がれないパンドラをこれ幸いとばかりに接近、その体に触れてろっこん『技術者の目』を発動させようとする。
「生体に使うのは初めてだけど、上手く発動するといいなー……、あれー？　全然見えないー？　というかむしろ本当にろっこん使えないー！？」
　如月と初島は困惑するばかり。
　鈴野はこの光景を眺めて、ある仮説を立てた。
「もしかしたら、先程食べられた方の中に至近距離のろっこんを封じるもれいびがいるのかもしれませんね。遠距離からの発動は確認されてますし、そう考えるのが妥当でしょう」
「おい、それって、近接型の俺たちは中の奴ら吐き出さない限り役立たずってことかよ……！？」
「そうですね、如月さん。残念ながら今の貴方は無能に限りなく近い状態です。救出は困難でしょう」
「なんてこった……」
　如月は白目を剥きながら後退を始めた。
「うーん、内部の弱点調べて救出に貢献しようとしたんだけどなー、これじゃ本末転倒だねー……」
　初島もがっかりしながら、ひとまず前線を他の仲間に任せることにした。

　鈴野の推理はまさに的中していた。
　北原のろっこん『ミス・ディレクション』は、周囲3ｍ内の誰かが一番の特技をした瞬間に発動するのだ。
　その効果は、『一番自信のある特技』(ろっこん含む)が失敗しやすくなるというもの。
　つまり北原を脱出させない限り、近接パワー型のもれいび達は何も出来ない！
　先程の桜庭の天運も、この効果で雲散霧消。
　物理ダメージは通ったものの、吐き出させるという『幸運』は消えてなくなってしまったのだ。
「うおっと！　コイツはマジのようだな……！」
　風雲児もパンドラへ接近しすぎると変身が解けてしまうことで確信を得る。
「厄介だな、腹を殴って吐き出させるのが手っ取り早いんだが……」
　距離を置いて弱点を見据える暗道は、忌々しげに傍観する他ない。
　同じようなことを考えていた前線メンバー。
　手を出せない膠着状態が発生してしまう。
　パンドラが今にも起き上がろうとしたその時だった。

　パンドラの腹が波打ち始めた。