もうひとつの卒業、桜色のにゃあ｜リアクション

もうひとつの卒業、桜色のにゃあ

Everybody Packy!!・１

　達成すべき大きな目標を前に、人はちょっぴりアンニュイな気分に陥ったり、惑ったりするものです。
　稲積柚春もその日はなんだか落ちつかず、ぷかぷか心が浮かぶよう。足元がなんだかおぼつかず、一歩すすむごとに片足がすっぽりと沈んでいくかのよう。どうにも浮ついた気分。
「ふう」
　知らずのうち、ため息がもれました。やらねばならぬと意気込むものの、その方法にはいまひとつ自信が持てず。策を弄すればよいのか、あるいは正攻法がただしいものか。はたまた、相手から持ちかけられるよう誘うべき……？
「むむむむっ」
　思考はぐるぐるぐるりとめぐりにめぐって、不安にもなりますけれど、やっぱり柚春の決意はかたく。やらねばならぬ！　こぶしをにぎり、むんと気合を入れるのです。
「よしっ」
　ようやく地に足つけて、力強く歩きだします。ゼッタイに成功させるのです。失敗は許されません。困難なミッションを成し遂げてこそ大きな喜びとなるでしょう、しかし失敗すれば向こう数か月の気マズイ時を過ごすことになりましょう。たぶんきっと。
「よ、よしっ……！」
　大いなるリスクも飲み下し、柚春は進みます。
　そう。パッキーゲームでウォルター・Bとキス、をもう一度！　アゲイン！　というインポッシブルなミッションを成功に導くのです！

　なんてそれはもう意気込んでやってきた待ち合わせ場所にて、柚春は目をぱちくり。
「……ワット？　その子は？」
「いやあ。なんか膝からどいてくれなくてねえ」
　ベンチに腰かけたウォルター先生のお膝にちょこん、乗っかっているのはなんとも愛らしい、そして不思議な、桜色の毛並みをしたお猫さまでした。
　なでなでなで。身動き取れずもまんざらではないようで、彼は桜にゃんこの頭やら背中やらをしきりに撫でつけています。
　なんとも素敵な青空が稜線にほんのりと残る朝日とまざりあい、えもいわれぬ美しさ。青色と桜色のグラデーションはまるで、ウォルターの青い瞳と桜猫のコラボレーションを思わせました。
「ふうっ」
　吐息とともに、彼の隣へぽすんと腰かけます。待ち合わせ場所はシーサイドタウン。ジュエリーショップの大きなウィンドウを背にしたベンチは恋人たちの定番スポットです。
　それを知ってか知らずかウォルターさん、
「いや～、かわいいねえ。おとなしいいい子だ。ほらほら、撫でなでなでナデ～。どう？　気持ちいいかい？」
「……むむむ」
　にっこりにこにこ、にゃんこにくびったけ。すっかり夢中です。思わずぷっくり頬をふくらませた柚春。
「もう、ワットったら！　僕以外の子にデレデレして！」
「ああっ」
　桜色のにゃんこは没収！　ひょいと抱き上げると柚春の腕の中。嫌がる様子もなく、ふにゃあと気持ち良さそうに鳴きました。
「それよりワット、デートだよ！　忘れちゃった？」
「忘れてないよお。どこに行くんだっけ？」
「忘れてるし！」
　今日はアロマショップを覗いて、どこかでお昼をいただいて、春服など見繕いつつイチャイチャして、カフェでお茶したりなんだり。デートをめいっぱい楽しみつつその過程において、どこかで柚春の目的を果たせたならなお良し。最高、とまあそういうカンジです。
「というわけだから、さ、行こうワット！」
「おっけー。じゃあまたねえ猫ちゃん、次も良かったらナデナデさせてよお」
「もう、デレデレしてっ」
　すとんと桜猫をベンチに置いて、さあレッツゴー！
　と、思ったら。
「ん？」
「あれ？」
　ふにゃあ。にゃおうん。
「……君もいっしょに来る、の？」
　うにゃあ！