もうひとつの卒業、桜色のにゃあ｜リアクション

もうひとつの卒業、桜色のにゃあ

Everybody Packy!!・３

　ふにふに。待たせるわね、さあ次にいくわよ？　てな感じで、しっぽをぴんと立てて先を行く桜猫のおしりを追いかけながらに歩きます。なぜってそうしないと、にゃんこは華麗なステップでするりとふたりの前へ回り込み、とおせんぼ。先に進ませてくれないもので。
「ははは、ずいぶん気にいられちゃったねえ。まいったなこりゃ」
「嬉しそうだねーワット」
　まあ柚春としても悪い気はしません。たまにはこんなデートもいいでしょう。愛らしいにゃんこはまるでキューピッド。なにやらいいことがありそうな気がしてくるではありませんか。
　それに今日の柚春には大いなる目的があります。そうパッキーゲームです。パッキーゲームでキスをもう一度！　生半にはかなえられないハードなミッションであります。ウォルター先生もしっかり先生でして、そこんとこゆるゆる判定にはしてくれませんから。
　猫ちゃんのおかげでウォルターさんも上機嫌ですし、もしかしたら貴重なチャンスがどこかでやってくる……かも！
「次は、春物の服を見たいんだっけ？　僕もちょうど、薄手のジャケットなんかほしいと思ってたんだよね」
「じゃあおたがい、選びっこする？　そういうのも楽しいと思うな」
「いいけど、あんまりヘンなの選ばないでよお？」
「あっ、僕のセンスを分かってないなー！」
　くすくすと笑い合うとなんだか、先を行く桜にゃんこの足取りもごきげんに弾む気がしました。毛並みも性格も、その存在が不思議な猫ちゃんなのでした。

　シーサイドタウンのアパレルショップをはしごして、柚春はウォルターの選んだブルーのパーカーとスキニーパンツを、ウォルターは柚春の選んだジャケットを購入。次のデートで着るのが楽しみです。
　ちょいと休憩、オープンカフェでコーヒーをいただきながらに、柚春はこてんと首を傾けました。
　パッキーゲームって、どこでしたらいいの？
（人のいるところじゃ無理だよね。僕も恥ずかしいし、ワットだって絶対してくれない。でも人のいないところなんてないし……人が見てない一瞬の隙に！　一瞬でパッキーゲームを？　ムリムリ。あそうだ、カラオケ！　カラオケボックス！　そうだよ、それが正しいパッキーゲームのありかたというか定番かつ王道というか）
「なーに考えてるのかなあ？」
　ほっぺたをつんとされて、はっとわれに返ります。気づけばぷっくり、ふくらんでいたみたいです。
「えっ？　あ、ええと。カラオケがいいのかなって……」
「カラオケに行きたいの？　えー、今からじゃちょっと時間がねえ」
「あ、いやっそうじゃなくて！　歌いたいとかじゃなくて」
「そーなの？」
　まあたしかに、カラオケボックスみたいな場所でするのが由緒正しきパッキーゲームってなものではありましょう。人目を気にせずパッキーぱくり、ん！　と突きだせばもしかしたらウォルター先生も、ん。と応じてくれたかもしれません。
　しかしながら今日のところは、それも難しそう。となると……作戦失敗？　次回に持ち越し？　そんな～。
「ふふ」
　ぽむ、と不意に頭へあたたかいものが乗せられて、柚春は目をぱちくり。乗っているのは、彼の手のひらでした。
「どこか行きたいとこでもある？　食べたいものとかあるのかい？」
　なんてたずねた彼の気づかいに、自分が思うよりもずいぶんと気を張っていたらしいことに気づきます。
　足元にはくすぐるような感覚。テーブルの下には桜猫、なにしてんのよ？　みたいな顔で柚春を見上げておりました。
「えーと。ワットと食べたいというか。したいこと、というか……」
「うん。なに？」
　しばし迷って、柚春は、
「や……やっぱりなんでもなーい！　コーヒーごちそうさまっ！」
　ぽいんと跳ねるようにして席を立つと、にが笑いとともに駆け出しました。