寝子温泉、謎解きの宿｜リアクション

寝子温泉、謎解きの宿

●かよと春貴のおふとんぺったりこな夜

（※マスター注：こちらではリア充な一夜が繰り広げられ（以下略））

　さて。一方、隣の部屋では。
「……で。この並べられた布団はなんだ？」
　潦春貴がうんざりと眼鏡の縁を持ち上げれば。
「にょーっ！　かよもびっくりだよー！」
　宇佐井かよがぴょんと布団にダイブする。

　というわけで、こちらはかよと春貴の部屋。そして、布団の件は……まあ、若い男女がひとつの部屋とくれば、仲居さんも気を利かすというものである。
「お部屋に戻ったら勝手にお布団が敷いてあるなんてっ！」
「そこかよ！　並んでる方が問題だろ！」
　と春貴はとりあえずつっこむ。が、かよは気にせず、そのお布団でごろごろしはじめる。
「宝探しの時に見つけた亀さんが敷いてくれたのかなーっ！　ありがとー！」
　そんなかよを乗せたまま、春貴はよいしょよいしょと布団を引きずり出した。
「ええい、布団は離す！」
「動いたーっ！　でもなんでー？　くっつけてると何か悪いことあるのかな？」
「ある。大ありだ！」
「ええーっ！　もしかしてお化けが出てきたり……きゃーっ！」
　春貴が一生懸命引きずっている布団の上で、かよはきゃっきゃとはしゃいでいる。
「とにかく、だ。互いに反対の壁際まで離すぞ！」
　片方の布団を壁際ぎりぎりまで運ぶと、かよは、わーっと声を上げてもう片方の布団の上に正座した。
　もう一度運んで、ということらしい。
　春貴は頭を抱えた。
「まったく……本当に頭の痛くなる。だが、宝探しではこいつに助けられる場面もあった……少しは見直してもいい、か」
　それにこうして誰かと過ごすのもいいものだな、と春貴は続けようとしたのだが。
「見直して見直してっ！」
　はしゃぐかよを見て出てきた言葉は、ついつい小言。
「が、こうして男と宿泊とは感心できん。お前は貞操観念まで欠けているのか……」
「ていそ……？　かよ、難しいことはわかんないよーっ」
「……何故俺と来たんだ」
「はるくんと来た理由はねー！　はるくんにりふ……」
「りふ？」
　かよは、ぶるるっと首を振る。
「にょーっ！？　もうこんな時間！　よいこは寝る時間だよっ！　抱き枕がなくて落ち着かないけど寝なきゃだよっ！　はるくんおやすみーっ！」
　かよは、がばっと布団を被ってしまう。
「おい。宇佐井、なんだよ！　おいっ！　……ってもう寝てる？」

　寝つきのよすぎるかよは、あっという間に布団を跳ね除け、大の字になっている。
　ついでに浴衣もはだけている。
「……この馬鹿者め」
　出来るだけ、かよの肌を見ないように顔を逸らしながら浴衣を直してやる。
　それから布団もかけてやって、電気も消して、ようやく部屋の反対端に敷いた自分の布団へと潜り込んだ春貴だったが。
「……寝るに寝れん」
　女の寝姿を見るのも不埒だろうと、かよに背を向け悶々としていると、ぴたりとその背に温かいものがひっつく感触で心臓が跳ねた。
「……うう～ん、……はる、くぅん……」
　かよだ。
　部屋の反対側からごろごろ転がってここまで来たのだ。
　なんて寝相がダイナミック！　いや、それよりもまた浴衣がはだけていて、そのやわらかい胸とか、脚とかが、春貴の背中に押し付けられ……。
「……ど、どれだけ寝相が悪いのだ……この、馬鹿者めがぁぁぁあ！」

　そんなこんなで、春貴が眠れず一晩中ドキドキ過ごしたことは、彼だけの秘密。

このページにイラストを設定する