寝子温泉、謎解きの宿｜リアクション

寝子温泉、謎解きの宿

●エピローグ

　夜風は、初夏のにおいを含んでいた。
　大部屋ではまだ、賑やかな笑い声が上がっている。
　斑鳩遙は、ひとり縁側に出た。酔って上気した頬に、夜風は涼しく心地よかった。
　街から離れたこの場所では、夜はしずかに、おだやかに過ぎてゆく。
　何処かで鳴く蛙の声。ささやかな葉擦れの音。小川のせせらぎ。
　闇の中でそれらは、やさしく遙を包んでくれる。
　遙は天を見上げた。
　雲が風に流され裂けてゆく。
　まるで昼間の謎解きのようだ、と遙は思った。
　やがて、隠れていた月が現れた。
　
「満月でもなく、新月でもなく……なにげないフツウの月もよいものですわね」
　ふと見ると、月明かりの下、浴衣姿の天満七星が微笑んでいた。
「そうだな」と遙は返した。
　今日は楽しかったです、と七星は頭を下げる。
　遙もまた自然と笑みを浮かべ、もう一度そうだな、と頷く。

「ああ、今日はなんて幸せなのでしょう」

　しみじみとつぶやく七星が、遙には眩しかった。
　ああそうだ。忘れてしまいがちだけれど。
　時にはこんな時間が、ひとには必要なのだろう。
　忙しない世の中だから。
　ついその流れに乗って頑張ってしまうから。
　立ち止まって、あたたまって、ばかばかしく笑って、ほっとする時間。
　自らを解放する時間。
　そんな時間がとても貴重に思える。

　遙と七星は、ふたり並んで天を見上げた。
　月の光はいつまでもおだやかに、この世界に降り注いでいた。

　まったくの余談だが。
　翌朝、宿を去りしなに、遙は玄関の水槽の中におかしなものを見つけた。
「あれ？　昨日来たときこんなものあったか？」
　そのおかしなものの名は与作像。
　彼は龍宮旅館の水槽の中で、絵に描いた龍宮城をバッグに、苔がむしても立ち続けることだろう。

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あとがき

担当マスター：笈地行
ファンレターはマスターページから！

皆様、明けましておめでとうございます。
ゲームマスターを務めさせていただきました、笈地行（おいちあん）です。
ご参加いただきありがとうございました！

謎解きは解けた方が多く、正解者のいないグループはありませんでした。
こういうイベント、一度行ってみたいなあという憧れも込めて
個人的に好きな温泉と絡めてみましたが、
謎をつくったり難易度を調整したりするのは難しいものですね。
イベント参加の皆さんには、ときにはグループを超えて、わいわい謎解きしていただきました。
あまりにもみなさん解けていたため、他の方やＧＡ相手のアクションなども加味して、
登場シーンを変えたり、かなりアドリブさせていただいている方もおります。
思ったのと違う箇所で登場している場合もあるかもしれませんがご容赦くださいませ。
結末に脱力しつつも、楽しんでいただけましたら嬉しいです。
今回、宝箱を開ける、とアクションにあった方は容赦なくヒゲです。

そして……梨香たんも、ちょっとお茶目なところとか出してみました。
たぶん坂内梨香とかシーノとか紅梟とかなんやねん、と思われた方がほとんどかと思われますが、
大丈夫です、このシナリオではそんなことはスルーしてくださって構いません。
ネタはこそっと仕込んであったものの、絡んでくださった方がいたおかげで、
正直、出すつもりのなかったところまで出してしまいました……。
一応、これまでの流れをご紹介しておきます。

【シーノ絡みのシナリオ】
1.夜の女帝号、洋上の宴（シーノ登場）
2.地下帝国、崩落！？（紅梟の壁画登場）
3.寝子温泉、謎解きの宿（今作）

もしかしたら今回は、シーノ絡みの話の流れの転換点になったかもしれません。
といいつつも、先のことはあまり約束しないでおきますね。もしまた機会があればよろしくお願いします。

それでは本年も何卒よろしくお願いいたします。笈地でした。

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