ヒゲ猫ペンシルと、魔法商店街の無邪気な子どもたち｜リアクション

ヒゲ猫ペンシルと、魔法商店街の無邪気な子どもたち

【PAIN BLOOD HISTORIA（１）】

　察するにデーモンどもにはいわば、階位といったものが存在するようだ。タフで群れをなすゾンビ、飛行するレッサーデーモン、炎をまとうラーヴァデビル。周囲を鼓舞するグレーターデーモン。全てを薙ぎ倒す巨躯をもつデストロイヤー。意思なき波状攻撃に思えて、下位のデーモンは上位のものに追従し統率されているようなそぶりだ。蟻か獣のごとき群れであったなら、いくらか楽をできたかもしれないが、どうやらそうもいかないらしい。
「いやはやいやはや、いやはや。すんごい数だねーこりゃ」
　視界を埋める黒い絨毯がごときデーモンたちを眺め、白檀カオルはさも愉快そうに言った。事実、愉悦に震えているのだろう。彼にとって我が魔法商店街の勃興は二の次だし、魔法でなにかを薙ぎ払い蹴散らすのを好んだ。
「さてさて、どーしたものかな。司令官？　指揮官かな、いやそれとも監督？　シンプルにリーダーとか隊長とか」
「呼び方はなんでも構いませんよ」
　もっとも八神修とてこれを楽しんでいないわけではないらしい。ストラテジーゲームといったか、戦略的思考を試されるものがお好みのようだ。ゲームに昂揚するのがLoreの攻略撃退に近づくのなら、それも良いだろう。
　今まさに押し寄せんとする大軍勢を前に、八神は笑む。
「さあ、戦争をはじめよう」

　空は赤く哭いている。まるで世界の終わりを叫ぶかのように。
　城塞をぐるりとめぐる石壁は堅牢に思えるが、まさしくこれが人類最後の砦というやつだ。今も平原をおびただしく埋めたゾンビどもがそれを破壊し突破すべく押し寄せ、壁上の兵士たちがライフルをこれを駆逐ししのいでいる。なんら手を打たねば突破されるのは時間の問題だ。
「戦争は数です。白檀さん」
「ほうほう」
「技術的劣勢は容易に覆しがたい。その上で、長く戦い抜ける勢力が勝利する」
「その心は？」
「個々の戦力は戦法を覆せず、戦法は戦術を覆せず、戦術は戦略を覆せない。ゆえに戦争とは、兵站とロジスティクスです」
「ほーん」
　気のない白檀はさておいて、八神はさっそく彼のいう兵站を整え始めた。つまり物資の生産や補給ルートの確立、人員の展開、施設の維持管理などだ。大軍勢が真正面からぶつかり合い火花を散らす大スペクタクルは戦のもっとも目につきやすい一側面に過ぎず、そこへいたる準備をこそ万全かつ恒常的に維持するのが肝要、というわけだ。さすがはネコジマの策士参謀といったところか。
　とはいえデジタルゲームらしく、兵站においてもこれがなかなか見ごたえがある。八神が手にした霊界仙人掌の芯の杖をかざすと、城塞内の一角が光が生まれ、武器工場が地よりせり上がり誕生した。指揮棒を振るように杖をひるがえすたび、弾薬工場や兵器開発研究所、兵科ごとの訓練所が建ってゆく。兵舎や食堂、救護室といった兵たちの衛生面をささえる施設の充実もまた重要だろう。
「設備を拡充し、技術レベルを段階的に高めつつ研究を進め、最短経路で時代の進化を目指します」
「時代の進化？」
「技術革命の節目となるポイントです。このゲームの攻略目標のひとつですよ。住人や兵の数、特定の設備の建設、求められる条件を満たせばより強力なテクノロジーがアンロックされていく」
「あんろっくね。なるほどね。それじゃ、僕はなにしたらいい？　きみの指示にしたがっておくよ。今のところはねー、くふふ」
　八神は……白檀を見抜いたろうか。しばし見据えた彼は変わらず、頼もしい仲間へとそうするように告げたのみだ。
「ちょうど重装歩兵の生産が開始されたようだ。彼らを率いて、城壁を防衛してください」
「いいねー。すごくいいよ、そういうの。僕にまかせておきなよ、司令官。くふふふ」