▼ゴーカート広場


　ゴーカート広場に来たのは、常盤 四月と多喜 勇生だ。
　互いに縫いぐるみのカモノハシと、ダイオウグソクムシたんになっているのさえ、初々しい二人には新鮮なときめき。

　――四月ちゃん、縫いぐるみになってもカワイイなぁ。

　穴が開くほど四月の横顔を見つめながら、勇生は明るく提案する。
「折角だから、カートに二人乗りしちゃおうか」
「うん♪」
　エスコートするため手を伸ばせば、ふんわりと手が触れて、勇生は縫いぐるみの体が熱くなるのを感じた。

　――よくよく考えてみれば、二人乗りって恋人同士みたいじゃないか！　四月ちゃんは、どう思ってるのかな？

　ちらと伺ったカモノハシの表情は、ミステリアス。
　柔らかなボア生地に包まれた、その心は？

　――好きな人と遊園地に来るの　ずっと夢だったの。子供っぽいって笑うかな？

「ねえ、タッキー」
「な、何だい。四月ちゃん？」

　見詰め合う、瞳と瞳。
　しかし四月、ここで＜となりのドッペルさん＞の力で分身。
「「しっかり捕まってて！」」
　２体に増えたカモノハシが、過激なハンドル捌きで、現れた追っ手の玩具達を轢きまくる。
「もー、せっかくいい雰囲気だったのに邪魔しないで！」

　勇生も僕も何かしなきゃ！　と体を丸めて、玩具達に突撃！
　ボウリングのピンのように、敵を弾き飛ばした勇生は目を回してしまったけれど。

　――おまじない、いたいのいたいのとんでけｖ

　額にそっと落ちてきたＷキスを、勇生はしかと受け止めた。


　アイルランドの妖精ケット・シーの縫いぐるみ、落神 れみは しっかり者の彼女らしく、ゴーカートを駆ると、仲間を拾って回っていた。

「せ、世界が広いですわ！
　テオの視点って、こんな風なのですね……いえ、私は正確にはぬいぐるみなのですけど」
　ゴーカート広場を見て回った彼女は、偶然玩具に追われていた晴海 飛鳥を拾って乗せた。
「いやー、助かった！　戦闘は極力避けたかったから、ありがとね。
　しかし幼女の次は玩具かぁ……まったく困ったもんだね……。あ！　僕は晴海飛鳥だよ、よろしくね」
「落神れみですわ、飛鳥さん。これから、どうなさるおつもりですの？」
「そうだね、カラスの動きを追いかけながらクローネ君探そうかな、っと」
「わかりましたわ。それじゃあ、飛ばしますわね」
「頼んだっ！　ゴーゴー！」


　ファンタジーの如く女騎士のフィギュアに変身したのは、桐野 正也。
「え？　ちょ、何だよこれー！！　違う、これは女装じゃなくて、そうだ、いつもの不幸だ！
　俺が “桐野正也” だって知ってる奴はいないし、このまま貫けば……！」
　狼狽のあまり、思考が駄々漏れになっていた正也は、それを後輩の哀坂 零葉に、しっかり聞かれていた。

「なんですか……この格好……」
　零葉は零葉で、普段の美しさを損なわないミニスカ少女フィギュアになった自分を見下ろす。
「……！　正也さん、後ろ！」
　襲ってきた玩具に、零葉は＜加速術【哀坂】＞で感情を犠牲に、キレのある蹴り主体の肉弾戦で挑む。
「日の無い夜は……私の領域です……」

「哀坂さん、無茶はすんなよ！」
　加勢しようと凛々しく剣を構えた正也は、蹴りの動作で零葉のスカートの中身が目に入って、思わず二度見した。

　――は、穿いてない、だと！？

　正也の＜思ったー＞発動！
　彼の心がフキダシとなって、目晦ましよろしく周囲をすげー勢いで埋め尽くした。

「穿いて、ない？」
　周囲の玩具を片付け終え、お尻に手を伸ばしミニスカの中を確認した零葉に、正也のトドメの一言が具現化する。

　――桃……。

「あ！　ご、ごめん！　そんなつもりじゃ！」
「……せ・ん・ぱ・いー……？（ゴゴゴゴゴゴ）」

　直後。正也の絹を裂くような（？）悲鳴が響き渡った。


「にょっ！？　なにこえー！　スカート短すぎるよもー！！　しかもなんか追いかけられてるしー！」
　＜エアホッパー＞の力で空へ舞い上がり、玩具の頭を踏みつけながら、セーラー服に長い鉢巻の格闘フィギュア七音 侑は、追っ手をかわす。

「何か武器になるものがあれば……でもこんな手じゃ、ろくな武器使えないさね」
　ほてほて歩きながら、二足歩行の狐の霧谷 朧。
「その声は！　朧先輩だー！　わー先輩、狐でかわいい！　かわいいにー！」
　照れながらも、むぎゅうと抱きついた侑をお手伝いに、朧は自分の為にある物で割り箸鉄砲を、侑のために双刀を器用に作り上げる。


　奇しくも、その時間を稼いだのは鬼の風紀委員・矢萩 咲。
　等身大のいやにリアルな熊となった彼女が、大きく振りかぶる。
「寝たと思ったら、何なのこれは！？　夢！　そう、夢よ……こんな熊になってるなんて……酷い夢だわ！
　吉田先生じゃあるまいし、私のどこに熊要素があるって言うのよ！」
　咲の黒いパトスの発露、＜メガエラ・フォース＞が玩具達をなぎ払う。
「そもそもこんな真夜中に、遊園地営業してるんじゃないわよ！
　ご近所迷惑、ひいては未成年の夜遊び、非行の原因になるでしょうが！」
　破壊の限りを尽くした、黒いビームに咲はドヤァ！
　声高に叫ぶ。
「まずは、風紀を乱す人多すぎなのよ！　もっと清く正しく生活しなさい！(ビーム)
　それに周りはリア充ばかり……色恋沙汰より、もっとやる事あるでしょう！(ビーム)
　……恋愛で思い出した……咲の……憎い、あの外道畜生（元彼）！
　咲の純情と恋愛観と清い体を返せ―！(ビーム)」


「侑ちゃん……」
「うん……はやくここ離れるに……」