アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

「一番煩いところじゃありませんの、此処は。私はあまり動きたくないですわね、ってちょっとお兄様！？」
　花飾りがあしらわれたドレスを纏った、ビスクドールの久世椿姫は扇子で扇ぎながら涼しい顔をしていたが、兄の久世藤夜が強引に妹を背に乗せて運ぶ。
　彼の方は、狼ぬいぐるみに身を変えており、これまでさんざ玩具を蹴散らしてきたのだが。
「何も感じない玩具なんて噛んでもつまらねぇし、やっぱりココはナマモノっしょ！
　椿姫も澄ましてないで、面白いトコロいこーぜ♪」
　だそうである。

　支柱を伝って、レールまで近寄った藤夜。妹をそこに下ろして、無邪気に言った。
「椿姫ー！　お前の力で俺を空に飛ばしてくれー。そしたら上飛んでる奴らも噛めるからさ♪」
「全くもう、兄様は勝手ですわ。
　仕方がありませんわね。久世家の娘として、家名に恥じぬ働きを見せて差し上げますわ」
　椿姫は扇をパンと開くと＜花散扇＞によって生じる風で、兄を花弁と共に舞い上げる。
「花と共に舞いなさい」
　藤夜がカラスの喉に、牙を突き立てた。が、＜Rapture fang＞の効果で恍惚となったカラスと共に、藤夜は真っ逆さまに落ちていくのであった。
「お兄様ったら、無様ですわね」
　哀れな兄に、妹はにべもなかった。

　空は飛べる者を中核に、激戦が繰り広げられていた。
　カラス達に巨大な影を落とすのは、鳥の縫いぐるみになった浅沼柳司。その背に飛べないメンバーを乗せて運ぶ。
　ロボの哀坂極夜（彼は変形すれば飛べない事もないが、攻撃力を優先した）、素肌の上にポンチョを着ているだけのフィギュア魂行凪、キラキラドレスのうさぎの縫いぐるみ十文字若菜らだ。
「俺はカラスの攻撃を避けるのに、集中するから、皆よろしく頼むわ！」

　クマの縫いぐるみの花厳望春は、棒つきキャンディを咥えると＜飴とムチ＞で召喚した鷹の「シキさん」の力を借りて参戦する。
「シキさん、今日は何が何でも、俺の言うこと聞いてもらいますからね。緊急事態なんですから！」
　心なしか上ずる望春の声に、普段の彼等の力関係が垣間見えた。

　トンビの縫いぐるみとなって、先にカラス達を果敢に牽制していた奈良橋博美も、援護射撃に咄嗟に連携を取る。
「多勢に無勢だから、助かるぜ！　同士討ちにならないように、宜しく頼むな」
　その後ろから現れた、ド派手な不死鳥の縫いぐるみは十条寺達磨。
「クローネの動向も気になるけど。今は、ののこ救出が先決だな！　よっしゃ、ののこは俺が助けるぜ！」

「皆、士気があがって……って、シキさん消えた？　あ、飴なくなってる。いつの間に！？」
　狼狽する間もなくシキさんの支えを失った望春は、空中を落下していく。
　それを達磨がナイスキャッチ！
「俺に乗れよ！　２人くらいなら、乗せても飛行出来そうだ」
「あ、ありがとう！」
　胸を撫で下ろした望春に、達磨は先ほどから感じている疑問を投げかけた。
「なあ、あの一羽だけ離れてるカラス……何してんだと思う？」
「うん？　そう言えば、何故だろう。怖がってるようにも、見えないけど……」
　一羽だけ群れを離れて、引いているカラスがいる。
　達磨は思案した。テオの話だと、カラスの中にも神魂を得ている者がいるらしい。

　――ひょっとしたら、アイツが？

　だが現状何かをしてくるわけでも、何らかの影響も感じられない。
　達磨はそれを、心の隅に置く事にした。

　高尾日菜は、＜とりのおうさま＞で呼び出した白頭鷺の「ルーくん」の背に乗っている。
　うさぎの縫いぐるみになった日菜の目には、見慣れたルーくんの姿が大きく頼もしく映った。
「ほら、こっちだよー！」
　カラスの周りを飛んで挑発した日菜、付いて来たカラスを引っ張りまわし、ムキにさせた所で、急な方向転換で障害物に激突させる。
　もっとも日菜は、ちょっと運動神経に自信がない。
「落ちる落ちる落ちちゃう……きゃ――っ！！」
　バランスを崩して堪えきれず、投げ出された日菜を、ルーくんが鍵爪で掴んだ。
「あ、ありがとう、ルーくん……ううう……ひどい目にあった……」
　でも心なしか、ルーくんが呆れてるように見えるけど、きっと気のせいだよね……？