アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

　夜会服に懐中時計を首から提げた羊の縫いぐるみ、澪乃澄佳は止まったままの秒針に目を落とす。
　＜空飛ぶ散歩のお時間です。＞の力で、澄佳は何も無い宙に足を踏み出した。
「みんな頑張るんだもの。したっけ、あたしにだってやれる事さあるはず……！」
　正直、カラスはおっかない。でもあたしは一人じゃない、自分に言い聞かせ、もこもこと身軽になった体を弾ませて、カラスの中央へ。
「あたしもいるよぅ～、かかっておいで～」
　わざと鬱陶しい動きを見せる澄佳を狙って、カラスが動く。歩く速度しか出せない澄佳は、逃げ切れず食い破られる自分を想像して思わず目を閉じたが、トンビの博美がカラスに体当たりして澄佳を守る。

「大丈夫か？」
　博美の動きは一羽に体当たりしたら、直角に折れ曲がりもう次の一羽へ滑空している、実に計算されたものだった。
「ふわ……すごい……」
「はは、これでも古武術家元の子だからな。
　頭使うのは他に任せるけど、俺達は俺達が出来る事を全力でやって、解決に貢献しようぜ」
「うん！　頑張ろうね」

　そんな彼女等の奮闘があったにも関わらず、クローネの元にののこを連れ去ろうと、カラス達は飛行部隊の隙を縫って、エンドレス・ジェットコースターへの猛攻を繰り返す。
　空を飛べるカラス達とはいえ、高速で走るコースターに、手を出しあぐねている。
　だが人間達が懸念した通り、上り坂ではコースターのスピードが落ちる。
　うさぎの縫いぐるみ達が登るたび、楽しそうな声を上げるのとは裏腹に、それはまさしくピンチだった。

「皆、コースターにカラスを近づけんなや！　気張って行こ！！」
　安定した足場になるため、攻撃には参加しない柳司はしかし、その圧倒的な存在感をカラスに示す。
「ん……次……あっち……」
　動物を愛する凪の表情は曇りっぱなしだ。
　だがカラス達がいたずらに傷つけられるのを避けようと、懸命に力を揮う。
　凪が念じれば、＜凪風＞で起こった風でカラス達は不安定に煽られた。

　風の切れ目を狙って、特攻するカラスは極夜が対応する。
「私がやりましょう。誰かの笑顔を曇らせる様な事は……許せないのです」
　カラス達が可哀想にも思えるが、ここはテオが作った世界だ。
　敵対勢力である事から、絶対という自信は極夜にもないが、これまでこちら側に踏み込んだ者達が、死亡しても現実では重大な影響を受けなかったように、きっとカラス達も大丈夫だろう。
　凪を見ていると、そう信じたくなる。
　もっとも、そうでなかったとしても。極夜にとって目の前で人を傷つけられる事は、到底看過出来ない。

「……カラス……可哀想………ごめん……なさい……」

「ごめんね、柳司君」
　柳司の背にクロスを広げ終え、若菜は調達してきた鏡を砕いた。
　＜Bai sema＞で防御結界が形成される。

「おー、すっげえな！」
「かっこいいー！」
「そうかな？　あなた達も、危なくなったらこっちへ避難するんだよ？」
　博美と日菜の賞賛に照れ臭そうに応じながらも、若菜はすぐに献身してくれている柳司の身を案じる。
「大丈夫？　破片、痛くない？　本当にごめんね」
「何ともあらへんよ。こんなん親父のゲンコに比べたら、屁みたいなもんや！」
　殊更に明るく、笑い飛ばす柳司。
「う、うん……でも怪我はない？」
「心配性やな、若菜先輩は。大丈夫や、言うてるやん？」

　ほほえましいやり取りを見守りながら、博美は気を引き締める。
「とは言え、本当に時間稼ぎだよな。テオやクローネを探しに行った連中はどうしてるだろう……」