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- 00月00日生 00歳
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WONDERFUL OPPORTUNITY！
空気が丸い。
梓 智依子は歩いている。晴れた空のもと、娘の楓と手をつないで。
昨日は角張った風が吹いており寒かったのに、今日はまるで川原の石みたいに、尖（とが）ったところのない陽気だ。目覚めたときからすっかり春、袖まくりしたくなるほどではないか。
つまり一年が経ったということだ。智依子が高校生になってから。
緊張しつつ迎えた入学式が、まるで昨日のことのよう。以来ずっと智依子の、マルチな日々はつづいている。高校生でシングルマザーでしかも玩具店ハローニャックの店員だ。ひとり三役は楽ではないが、祖父母など周囲の助けもあってなんとかこなしてきた。もちろん学業もおろそかにすることなく、二年生への進級も無事きまっている。
早いもので楓も今年の秋には六歳になり、来年はついに小学校にあがる予定だ。
そして私も、四月で二十歳。
一区切りの年齢といえようか。しかし人生百年時代と言われる現代だから、はじまったばかりだといえるかもしれない。
最初の一区切りといったところで、智依子には捨ててきたものがたくさんあった。たとえばそのひとつはダンサーという夢だ。
ところがブランクはあっても高校に入学できたように、ダンサーの夢も枯れ果てたわけではなかった。
昨年夏、楓を連れて訪れたビーチで激しいダンスビートを耳にしたことが発端だ。見知らぬ若者の集団が、灼熱の日差しをものともせずブレイクダンスに興じていた。まばらながら見物人もおり、智依子は吸い寄せられるようにその一角に加わった。漫然と眺めていたつもりの智依子だったがやがてたまらなくなり、楓の後押しもあって輪に加わったのである。まともに踊るのは数年ぶりだった。しかし動きは体が覚えていた。自己流それもアドリブだというのに、たちまち智依子の舞踏は周囲を魅了し、いつしか見物人の集団を生み出すにいたったのだった。
これは後から知った話だが、智依子に見とれていた若者が言ったという。
「あれChiCoじゃね？」
抜群のセンスと技量でストリートダンスの界隈を沸かせた天才少女――『ChiCo』と名乗っていたころの自分を知っているものがあったとは。しかも一人や二人ではなかったらしい。いつしか観衆のあいだにChiCoの名はさざ波のようにひろがり、楓の耳にも届いていた。
「かえでもダンスする！ ダンサーになる！」
直後楓は、胸を張って智依子に宣言したのである。
その日を境に楓は智依子がChiCoだったころの動画を観たがるようになった。とうに忘れられた名前だと智依子は思っていたがそれはまちがいで、ネット上にはChiCoの動画がいくつもあった。大きな大会のハイライトはもちろん、通っていたスクールの宣伝映像もあったし、チェックするため練習を自分で撮影したものまで眠っていた。これを楓は何度も何度も、あきれるほど毎日のように観ていた。
もちろん楓は実演も希望した。娘に請われれば弱い。智依子は楓に簡単なステップをマンツーマンで教えた。とはいえ正式な指導ではないから、手すきのときにほんの少しずつだ。飽きるかと思いきや楓は熱心で根気強く、新しい動作を覚えるたびもっともっととせがんだ。ダンスを覚えていくこと、自由に体を動かせることが楽しくて仕方がないらしい。
じつのところ今日も智依子は、ハローニャックの仕事が休みなので寝子ヶ浜海浜公園で楓とダンスをする計画だ。
楓はすでにうずうずしている様子で、歩みながらも軽いステップになっていた。
親のひいき目じゃないけど、楓は筋がいいと思う。
歩きかたからしてちがうのだ。楓は歩いていてまったく頭がぶれない。しゃべりながらでも、なんなら歌いながらでも同じだ。智依子がこの域に達するまでは一年近くかかったものだ。しかも意識して訓練した結果である。ところが楓にはまだほとんど教えていないのに、すでに体得してしまっている。大腰筋が安定していないとこうはできない。まさに天性といえそうだ。
本格的にトレーニングを積ませたら、もしかすると私よりも才能があるかもしれない。
嬉しくもある半面、智依子としては少しばかり不安でもあった。
精神的な成長のほうはどうか。
さすがに私と同じになることはないだろうけど、もしも私と同じ道──十四歳で娘を産んだときと同じ道を、楓もたどったとしたら。
しかしそうなったらそうなったときだ。智依子は思いを改めた。
心配ない。問題ない。そのとき私は楓と、楓が産んだ子を守り切ってみせるから。
内心で誓う。
「ママー」
と楓が自分を呼ぶ声で智依子は我に返った。
梓 智依子は歩いている。晴れた空のもと、娘の楓と手をつないで。
昨日は角張った風が吹いており寒かったのに、今日はまるで川原の石みたいに、尖（とが）ったところのない陽気だ。目覚めたときからすっかり春、袖まくりしたくなるほどではないか。
つまり一年が経ったということだ。智依子が高校生になってから。
緊張しつつ迎えた入学式が、まるで昨日のことのよう。以来ずっと智依子の、マルチな日々はつづいている。高校生でシングルマザーでしかも玩具店ハローニャックの店員だ。ひとり三役は楽ではないが、祖父母など周囲の助けもあってなんとかこなしてきた。もちろん学業もおろそかにすることなく、二年生への進級も無事きまっている。
早いもので楓も今年の秋には六歳になり、来年はついに小学校にあがる予定だ。
そして私も、四月で二十歳。
一区切りの年齢といえようか。しかし人生百年時代と言われる現代だから、はじまったばかりだといえるかもしれない。
最初の一区切りといったところで、智依子には捨ててきたものがたくさんあった。たとえばそのひとつはダンサーという夢だ。
ところがブランクはあっても高校に入学できたように、ダンサーの夢も枯れ果てたわけではなかった。
昨年夏、楓を連れて訪れたビーチで激しいダンスビートを耳にしたことが発端だ。見知らぬ若者の集団が、灼熱の日差しをものともせずブレイクダンスに興じていた。まばらながら見物人もおり、智依子は吸い寄せられるようにその一角に加わった。漫然と眺めていたつもりの智依子だったがやがてたまらなくなり、楓の後押しもあって輪に加わったのである。まともに踊るのは数年ぶりだった。しかし動きは体が覚えていた。自己流それもアドリブだというのに、たちまち智依子の舞踏は周囲を魅了し、いつしか見物人の集団を生み出すにいたったのだった。
これは後から知った話だが、智依子に見とれていた若者が言ったという。
「あれChiCoじゃね？」
抜群のセンスと技量でストリートダンスの界隈を沸かせた天才少女――『ChiCo』と名乗っていたころの自分を知っているものがあったとは。しかも一人や二人ではなかったらしい。いつしか観衆のあいだにChiCoの名はさざ波のようにひろがり、楓の耳にも届いていた。
「かえでもダンスする！ ダンサーになる！」
直後楓は、胸を張って智依子に宣言したのである。
その日を境に楓は智依子がChiCoだったころの動画を観たがるようになった。とうに忘れられた名前だと智依子は思っていたがそれはまちがいで、ネット上にはChiCoの動画がいくつもあった。大きな大会のハイライトはもちろん、通っていたスクールの宣伝映像もあったし、チェックするため練習を自分で撮影したものまで眠っていた。これを楓は何度も何度も、あきれるほど毎日のように観ていた。
もちろん楓は実演も希望した。娘に請われれば弱い。智依子は楓に簡単なステップをマンツーマンで教えた。とはいえ正式な指導ではないから、手すきのときにほんの少しずつだ。飽きるかと思いきや楓は熱心で根気強く、新しい動作を覚えるたびもっともっととせがんだ。ダンスを覚えていくこと、自由に体を動かせることが楽しくて仕方がないらしい。
じつのところ今日も智依子は、ハローニャックの仕事が休みなので寝子ヶ浜海浜公園で楓とダンスをする計画だ。
楓はすでにうずうずしている様子で、歩みながらも軽いステップになっていた。
親のひいき目じゃないけど、楓は筋がいいと思う。
歩きかたからしてちがうのだ。楓は歩いていてまったく頭がぶれない。しゃべりながらでも、なんなら歌いながらでも同じだ。智依子がこの域に達するまでは一年近くかかったものだ。しかも意識して訓練した結果である。ところが楓にはまだほとんど教えていないのに、すでに体得してしまっている。大腰筋が安定していないとこうはできない。まさに天性といえそうだ。
本格的にトレーニングを積ませたら、もしかすると私よりも才能があるかもしれない。
嬉しくもある半面、智依子としては少しばかり不安でもあった。
精神的な成長のほうはどうか。
さすがに私と同じになることはないだろうけど、もしも私と同じ道──十四歳で娘を産んだときと同じ道を、楓もたどったとしたら。
しかしそうなったらそうなったときだ。智依子は思いを改めた。
心配ない。問題ない。そのとき私は楓と、楓が産んだ子を守り切ってみせるから。
内心で誓う。
「ママー」
と楓が自分を呼ぶ声で智依子は我に返った。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2024年07月25日
- 参加申し込みの期限
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- 2024年08月01日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2024年08月01日 11時00分
