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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
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WONDERFUL OPPORTUNITY！
春だなぁ。
荷づくりにも飽いて、窓から半身をのりだし空を見上げる。
いい天気、というよりとんでもないくらいの快晴だ。雲ひとつなくひたすらに、青い天蓋のような空、なるほど穹窿（きゅうりゅう）とはまさに、こんな状態をいうのだろう。やわらかな日差しに桜井 ラッセルは目を細めた。
まだラッセルは高校生なのかもしれない。
けれど登校日はすべて片付き、あとは卒業式を残すのみだ。気持ちのうえでは高校生活は終わったに等しい。
したがって桜花寮の自室も引き払わなければならないわけだ。段ボールに本を詰めて衣類を詰めて、現在ラッセルは引っ越し準備の真っ最中だった。
のんべんらだりとした引っ越し作業はどうしても中断しがちだ。
こんな本買ってたよな。
うわー、この写真ここに入ってたのかー。
おっと、なくして見つからなかったペンじゃあないか。
小さな発見のあれこれが、ただでさえスローペースの荷造りをさらに遅らせる。しかもたびたび小休止が入るのだ。作業は亀の歩みだった。
なっかなか進まねーなー。
でも本当は。
わざと、ちんたらしてるのかもな。
三年間ずっと桜花寮だった。
相部屋二段ベッド、部屋替えもあったとはいえ基本構造はずっと同じで狭かった。ベランダは猫の額で手すりはサビだらけ、ドアの蝶番（ちょうつがい）はいつも、甲高く奇妙な音を立てた。ボロいのは部屋に限った話ではない。壁はところどころひび割れており、オープンスペースのカーペットには何カ所も黒い謎のシミがひろがっていた。シャワーはたまに湯がとまり、ジュースの自販機は高頻度で『調整中』になる。玄関脇のポストはやたらカビ臭く、玄関脇の鏡には芸術的なヒビが入ったままだ。高級メゾンだなんて、逆さ吊りにされたって認められないだろう。
なのに住めば都とはよく言ったもので、ラッセルにとって憩いの我が家とはこの寮だ。いまはまだ、とどまりぐずぐずとしていたかった。
いかんなー。
切り替えねーと。
転居先は決まっている。島内のアパートだ。すでに入居は可能だから、なんだったら卒業式の朝はアパートで迎えたっていいくらいだ。きっとそんなことはしないだろうけども。
新居といえば聞こえがいいが、新たな住まいもタワーマンションとはいえずむしろその対極だ。築年数はラッセルの歳を大きく上回っている。といっても少なくとも、居住空間はずっと広くなることはまちがいない。駅からはいささか距離があるものの、コンビニが近いのも何かと好都合だ。もちろん家賃は格安、台所だって、寮の自室みたいにチープなのと比べるとずっと機能的だ。この価格帯としては衝撃的なことに風呂とトイレはセパレートのうえ、キッチンをのぞいて二部屋もあるのだ。
この条件なら。
その先を考えてしまう。期待と不安半々ながら。
……言える。
言えるよな、俺。
うん、言おう。
言うぞ。決めた。
こんなに快晴なんだから、いいほうに転がる予感がするんだ。
人生ときには、勢いが大切な場合もある。いまがそうだとラッセルは確信した。
賽（さい）は投げられた。
いや、投げるのはこれからだった。大きく振りかぶって――。
ラッセルは腰に手を伸ばす。そこにはハンドガンならぬ貝殻が、赤い組紐でくくりつけられている。
単なる貝殻ではない。アクセサリー要素もあるがただのアクセサリーでもない。これは貝殻携帯電話略して『ガラケー』、恋人同士だけのプライベートライン、すなわちラッセルと晴月限定の直通通信機だ。アプリなんかもちろん入らないしメールすら不可、しかも寝子島でなければ使えないという欠点はあるが、充電不要の優れものである。
ラッセルは貝殻を耳にあてる。大きな穴で潮騒に似た音を聞いて、マイクを模した小さな穴に話しかけた。
「もしもし」
相部屋の住人は現在不在だ。気がねする必要はない。もう一度、今度はいくらか大きな声で。
「もしもーし」
呼び出し音の口まねをしてみる。リーンなんて言ってみたりして。
だがリーンがうーむになるまで、それほど時間はかからなかった。
フツウならぬ不通、略称ガラケーの最大の弱点だ。電波状態（？）が悪いのか、このアイテムはけっこうな頻度でつながらない。つながるときはそれこそ毎日でも、日中真夜中時間かまわず、他愛もないおしゃべりで時間を忘れるくらい使えるしわりと高音質なのだが、駄目なときは数日連続で使用不可になったりする。気まぐれにもほどがある仕様だ。
いけると思ったんだけどなあ。
仕方なく貝殻をウエストに戻した。
まあ、今日一日ちょくちょく試してみよう。
同じ一日でも急につながったりつながらなかったりするのだから。
だったら引っ越し作業再開か？
そんな気はなくなったな。
その気になれば半日かからず、全部片付いてしまうだろう。ラッセルはすでに何人か、退寮する友人の手伝いをしたから実感がある。
なので出かけると決めて靴を履いた。
ラッセルには、話を聞きたい人がいる。
荷づくりにも飽いて、窓から半身をのりだし空を見上げる。
いい天気、というよりとんでもないくらいの快晴だ。雲ひとつなくひたすらに、青い天蓋のような空、なるほど穹窿（きゅうりゅう）とはまさに、こんな状態をいうのだろう。やわらかな日差しに桜井 ラッセルは目を細めた。
まだラッセルは高校生なのかもしれない。
けれど登校日はすべて片付き、あとは卒業式を残すのみだ。気持ちのうえでは高校生活は終わったに等しい。
したがって桜花寮の自室も引き払わなければならないわけだ。段ボールに本を詰めて衣類を詰めて、現在ラッセルは引っ越し準備の真っ最中だった。
のんべんらだりとした引っ越し作業はどうしても中断しがちだ。
こんな本買ってたよな。
うわー、この写真ここに入ってたのかー。
おっと、なくして見つからなかったペンじゃあないか。
小さな発見のあれこれが、ただでさえスローペースの荷造りをさらに遅らせる。しかもたびたび小休止が入るのだ。作業は亀の歩みだった。
なっかなか進まねーなー。
でも本当は。
わざと、ちんたらしてるのかもな。
三年間ずっと桜花寮だった。
相部屋二段ベッド、部屋替えもあったとはいえ基本構造はずっと同じで狭かった。ベランダは猫の額で手すりはサビだらけ、ドアの蝶番（ちょうつがい）はいつも、甲高く奇妙な音を立てた。ボロいのは部屋に限った話ではない。壁はところどころひび割れており、オープンスペースのカーペットには何カ所も黒い謎のシミがひろがっていた。シャワーはたまに湯がとまり、ジュースの自販機は高頻度で『調整中』になる。玄関脇のポストはやたらカビ臭く、玄関脇の鏡には芸術的なヒビが入ったままだ。高級メゾンだなんて、逆さ吊りにされたって認められないだろう。
なのに住めば都とはよく言ったもので、ラッセルにとって憩いの我が家とはこの寮だ。いまはまだ、とどまりぐずぐずとしていたかった。
いかんなー。
切り替えねーと。
転居先は決まっている。島内のアパートだ。すでに入居は可能だから、なんだったら卒業式の朝はアパートで迎えたっていいくらいだ。きっとそんなことはしないだろうけども。
新居といえば聞こえがいいが、新たな住まいもタワーマンションとはいえずむしろその対極だ。築年数はラッセルの歳を大きく上回っている。といっても少なくとも、居住空間はずっと広くなることはまちがいない。駅からはいささか距離があるものの、コンビニが近いのも何かと好都合だ。もちろん家賃は格安、台所だって、寮の自室みたいにチープなのと比べるとずっと機能的だ。この価格帯としては衝撃的なことに風呂とトイレはセパレートのうえ、キッチンをのぞいて二部屋もあるのだ。
この条件なら。
その先を考えてしまう。期待と不安半々ながら。
……言える。
言えるよな、俺。
うん、言おう。
言うぞ。決めた。
こんなに快晴なんだから、いいほうに転がる予感がするんだ。
人生ときには、勢いが大切な場合もある。いまがそうだとラッセルは確信した。
賽（さい）は投げられた。
いや、投げるのはこれからだった。大きく振りかぶって――。
ラッセルは腰に手を伸ばす。そこにはハンドガンならぬ貝殻が、赤い組紐でくくりつけられている。
単なる貝殻ではない。アクセサリー要素もあるがただのアクセサリーでもない。これは貝殻携帯電話略して『ガラケー』、恋人同士だけのプライベートライン、すなわちラッセルと晴月限定の直通通信機だ。アプリなんかもちろん入らないしメールすら不可、しかも寝子島でなければ使えないという欠点はあるが、充電不要の優れものである。
ラッセルは貝殻を耳にあてる。大きな穴で潮騒に似た音を聞いて、マイクを模した小さな穴に話しかけた。
「もしもし」
相部屋の住人は現在不在だ。気がねする必要はない。もう一度、今度はいくらか大きな声で。
「もしもーし」
呼び出し音の口まねをしてみる。リーンなんて言ってみたりして。
だがリーンがうーむになるまで、それほど時間はかからなかった。
フツウならぬ不通、略称ガラケーの最大の弱点だ。電波状態（？）が悪いのか、このアイテムはけっこうな頻度でつながらない。つながるときはそれこそ毎日でも、日中真夜中時間かまわず、他愛もないおしゃべりで時間を忘れるくらい使えるしわりと高音質なのだが、駄目なときは数日連続で使用不可になったりする。気まぐれにもほどがある仕様だ。
いけると思ったんだけどなあ。
仕方なく貝殻をウエストに戻した。
まあ、今日一日ちょくちょく試してみよう。
同じ一日でも急につながったりつながらなかったりするのだから。
だったら引っ越し作業再開か？
そんな気はなくなったな。
その気になれば半日かからず、全部片付いてしまうだろう。ラッセルはすでに何人か、退寮する友人の手伝いをしたから実感がある。
なので出かけると決めて靴を履いた。
ラッセルには、話を聞きたい人がいる。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2024年07月25日
- 参加申し込みの期限
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- 2024年08月01日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2024年08月01日 11時00分
