こんにちは、赤ちゃん？｜リアクション

こんにちは、赤ちゃん？

【どうするのさー！】　

　猫鳴館、桃原空音の原稿執筆用缶詰部屋。

「……」
　空音は抱き枕を手に、自分の胸とお腹を見つめていた。
　昨日はネコミケに向けて缶詰部屋で作業だった。
（夜遅くまで頑張って、テオルくんの抱き枕抱いて寝て、
　起きたら念願のおっぱいがあった……お腹が大きかった）
　身長１４０ｃｍの小柄な空音には不釣り合いな体型だ。
　おまけに。
　突いてくる小さなリズムを感じた……中から。
「えっ、中から蹴られてる！？　え、エロ同人展開だぁ……！？」
　まさか、抱きまくらとの子供……
「な訳無いじゃん！」
　空音は抱き枕に拳を叩きつける。
「やっ、やっぱりあの時……！？
　犯人は気絶してる時に一緒にいた士くんしか考えられないよ！」

　缶詰部屋の隣室で、邪衣士は不調に悩んでいた。
（頭が痛い……それに何故か少し吐き気もする……）
　見た目に変わったところはなかったものの、士もまたこの現象の影響を受けていた。
「また無理が祟ったか？　こういうときはゆっくり部屋で休……ってどうした桃原！？」
　飛び込んできた空音の様子に、士は白目をむいた。
「………おい、その格好はなんだ？　冗談にしてはやけにリアルだな」
「嘘吐きー！！唇だけじゃなかったんだ……！
　やっぱりあたしが溺れて気絶した間ににゃんにゃんしたんじゃん！」
　有無を言わせない空音の剣幕に、痛む頭を押える士。
「待て落ちつけ、冷静に考えろ！　俺に言われても身に覚えが無いぞ……
　仮にそういう事があったとしても１、２ヶ月でそんなにお腹が出るわけがないだろ！！
　いや、確かにもれいびだから通常の人と体のつくりが……」
　余計に墓穴を掘る発言をしてしまう士。
「セイレーンの時のこと！　これでも信じろって言うの？　
　信じたあたしが……グスッあたしが……馬鹿だったよぉ……！
　三次元の男の子と子供なんて……作る予定なかったのにぃ……！　赤ちゃん、育てるのどうするのさー！」
（溺れて人工呼吸したときのことを、ここまで引きずるとはな。
　セイレーンの時にやっと納得してくれたと思ったのに）
　あの時と違って、間に入ってくれる友人もいない。
　舌打ちしたい気分の士だが、何か喉の奥からこみあげてくる。
「って、だから何もしていないって！　っう……吐き気が……
　とにかくだ、まずは落ちつけ……あんまり暴れるな、こんなところを他の誰かに見られたらあらぬ誤解を受ける！」
「結婚＝責任を取るとか冗談じゃないよ！
　わあぁーん！　こんなお腹誰にも見せられないよぉ……！布団でも箱でも押入れでも隠れるー！」
　泣きながら空音は士の押入れを開け、邪魔なものを放り出して自分が潜り込もうとする。
「おい、よせ……！」
　止めようとした士の頭を、空音が放り出したカピバラの縫いぐるみが直撃する。
「はぁ……なんでこんな事に……ただでさえ痛い頭が余計に……
　とりあえずどうするんだよこれ……もし戻らなかったら……
　いやあの時責任は取るって言ったけどこういう意味じゃなくてだな！」
　だが、押入れに潜り込もうとした姿勢がお腹を圧迫したのか、空音が苦しげなうめき声をあげる。
「うぐっ……きもち、わるい……」
「っておい大丈夫か？！　具合が悪いのか？　腹が痛いのか？
　原因はともあれこんな状態なんだから安静にしてろ……」
　あたふたと士は空音の背中をさすった。