こんにちは、赤ちゃん？｜リアクション

こんにちは、赤ちゃん？

【戸惑いの目覚め】

　桜花寮の自室で目覚めた雨寺凛は、体調がおかしいことに気づいた。
「うっ……なんか気分が……あ、あれ？　なんかお腹が膨らんでる？」
　昨日まで、贅肉とは無縁のスリムなお腹だったはずなのに。
　これでは、まるで……
　ふらふらと洗面所に向かいながら凜はふと、こういう症状を起こす原因とされることに思い至る。
（あれ、これって……え、ええー！？　うっそ、まさか私できちゃってるの！？）
「いやいや身に覚えがないよ！
　どうしよー……実家のパパやママに謝ったほうがいいのかな……」
　先日の父の日に動画メールを送ったばかりだというのに。
　こんな自分を見たら両親は何と言うだろう。
　でも、見に覚えがないんだから仕方ない。悪いことはしてない。
　重い体を気にしつつ緩めの服に着替える。
「この体じゃ激しく動き回ったりもできないよね……バンドのライブに行くのはしばらくお預けかなぁ」

　だが、凜は前向きだった。
「……授かっちゃったからには育ててあげたいな。
　私みたいに音楽好きな子になってくれたらいいなぁ……そうだ！」
　ライブには行けなくても。パパの影響で自分が音楽好きになったように。
　凜はパパからもらったギターを取りだし、ベッドに腰掛ける。
「胎教に私のギターを聞かせてあげよう！」
　爪弾くのはソフトで繊細な、優しいバラード。
　動揺していた気持ちもだんだんと落ち着いてくる。
「これがママの好きな曲だよー♪」
　自分のお腹に向かって話しかける姿は、すでに母親のようだ。
「いずれ親子で一緒にライブに行ってみたいな……それか楽器教えてあげて一緒にセッションとか出来たら素敵かも……！
　私がギターでこの子がベースがいいかな……男の子だったらメインボーカルやってもらって私がコーラスってのもありかな、えへへ……♪」
　いつのまにか悩みはどこかへ飛んでいってしまった。
「名前、どうしようかなあ？」
　音楽と共に。お腹以上に大きな、楽しい夢が膨らんでいった。

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