ゼリンとぷにゅぷにゅ｜リアクション

ゼリンとぷにゅぷにゅ

　万条幸次が気ままに旧市街を歩く。パーカーの右肩には愛猫の花遊が丸くなっていた。人や風に揺れる梢に反応してはすっくと立ち上がる。
「今日も元気だねぇ」
　のんびりした口調で花遊の頭を撫でる。
　古びた木造住宅を道なりに進むと、公園の一部が見えてきた。
　――急にゼリンって単語が頭に浮かんだ。前の時も花遊がいたんだよねぇ。それで思い出したのかなぁ。
　幸次は花遊に横目をやり、どう思う？　と呟いて喉を摩る。長く続けると甘噛みで対抗してきた。
「知るか、って感じだねぇ」
　じゃれ合いながら幸次は公園の中へ入る。何かを期待するような目を周囲に向けた。
「え、本当に！？」
　ベンチの上に赤い楕円形の物体がいた。以前に出会った時と同じで猫耳をピンと立てていた。
「ぷにゃー！」
　興奮した様子でゼリンが鳴いた。尻尾の代わりに身体を左右に振った。
「俺のことを覚えていたんだね。本当に久しぶりだねぇ」
　小走りで近づくと肩の上の花遊が立ち上がる。勢いよく振る尻尾が幸次の頬を何度も叩いた。
　無人の公園が一気に賑やかになる。
「あれ？　増えた？」
　ゼリンの後ろから別の三体が転がるようにして現れた。小さいながらも猫耳が付いていた。
「分裂じゃなくて、もしかして子供だったりするのかなぁ」
「ぷにゃ！」
　答えるように強めに鳴いた。小さい三体は飛び跳ねて大きなゼリンに乗っかろうとした。コロコロと転がる姿に幸次は目を細めた。
「にゃー！」
　花遊は鳴くと自らベンチに飛び移る。小さな三体に紛れて大きなゼリンに頬ずりをした。
　その様子を機嫌よく眺めていた幸次は、あれ？　と声を漏らす。
「俺ってボッチになってない？」
　その弱々しい声に大きなゼリンが幸次の胸に飛び込んだ。両手でキャッチして笑みを浮かべる。
「ありがとう。俺を仲間に入れてくれて」
「ぷにゃー！」
「ぷに！」
「ぷにゃっ！」
　三体のゼリンも跳んだ。幸次は慌てて身体で受け止めた。両肩や頭に載せて、ゼリンタワーだねぇ、と緩やかに回り出す。
　せがむ花遊も加えて公園内を浮かれて歩く。
　その中、小さな一体が飛び降りた。他の二体が続き、大きなゼリンが後を追い掛ける。公園の隅で止まると一斉に鳴き出した。
　その行動に幸次は笑顔を見せた。
「追いかけっこがしたいんだねぇ。じゃあ、俺が鬼になるよぉ」
　加減して走るとゼリンは弾けるように四方へ逃げた。その動きは意外と速く、間もなくして幸次の本気を引き出した。
　その中には花遊もいた。疲れると木陰を見つけて丸くなる。
　幸次は別でゼリン達と全力で戯れた。体力の限界を感じると迷わず、おやつの力を借りた。猫用のカリカリを与えている間にベンチに腰掛けて英気を養う。
　その繰り返しで時は過ぎ、世界は赤く染まる。
　空に呼ばれるようにゼリン達がふわりと浮き上がる。赤いシャボン玉のように寄り添いながら揺れた。
　別れを惜しむような声が空から降ってきた。
「ぷにゃ、ぷにゃー！」
「ぷにゃー！」
「ぷにゃ！　ぷにゃ！」
　幸次の肩にいた花遊は、ぷにゃー、と鳴いた。
「今日は楽しかったよ。元気でねぇ」
　小さくなるゼリン達に手を振る。見えなくなっても振っていた。
　花遊が語り掛けるように、にゃー、と鳴いて頬ずりを始める。
「そうだね。一緒に帰ろう」
　喉を摩りながら幸次と花遊は赤い世界を歩いていった。