ゼリンとぷにゅぷにゅ｜リアクション

ゼリンとぷにゅぷにゅ

　晴れた空を見て梓智依子は急いで洗濯機を動かす。布団や枕を干し終わると食器洗いに専念した。
「ママー」
　愛娘の楓が走ってきて足にしがみ付く。
「どうしたの？」
「きょうはいえにいるんだよね」
「日曜日は仕事だけど、今日は家にいるよ」
「それならいっぱいあそべるね」
　笑顔を浮かべる楓に智依子は微笑む。
「この洗い物が終わって洗濯物を干したら遊べるよ。だからお部屋で待っていて」
「うん、わかった！」
　来た時と同じように元気に走っていった。
　食器洗いを済ませると洗濯物に取り掛かる。服の皺を伸ばし、丁寧に干していく。家の中から楓の笑い声が聞こえた。
　干す手を止めて耳を澄ます。今度は走り回るような音がした。
「……いけない」
　止まっていた手を再び動かす。ハンガーに掛けた洋服の合間から見える青い空に自然と表情が和らいだ。
　全てを済ませた智依子は楓がいる部屋に向かう。
　――今は静かみたいね。疲れて寝ているとは思わないけど、この間、買ってきた絵本の読み聞かせもいいかもね。
　ドアの近くまでくると、わー、という楓の声が聞こえた。
　智依子は不審に思いながらもドアを開けた。楓が天井に両手を伸ばし、こっちだよ、と笑顔で呼び掛けていた。
　その物体は白い楕円形で羽根を生やしていた。緩やかに羽ばたき、天井近くをふわふわと飛んでいる。見ていると楓の上にふわりと下りた。
「あ、ママにも」
　楓が智依子に目を向けた。
「私にも？」
　頭の上に柔らかい感触。それでいて少しひんやりとしていた。手を伸ばしてみると羽根のような物が指先に触れた。伝うようにして本体を掌で確かめる。滑らかな表面を撫でると僅かな震えが伝わった。
「楓と同じように私の頭にもいるの？」
「そうだよ。はねをうごかして、なんかうれしそう」
「そう、なのね。どこからきたのかしら？」
　楓は走って窓の上の方を指さした。
「そらからきたんだよ」
「だから羽根があるのね」
「ツルツルのふわふわでゼリーみたい」
　楓は両手を広げてスキップを始める。頭上の物体の真似をしているようだった。
　その愛らしい姿に智依子は思わず、スマートフォンを取り出した。レンズを楓に向けると、こっち見て、と優しく語り掛ける。
　無邪気な様子を写真に収めた。画像で確認すると頭にぬいぐるみを載せた子供がはしゃいでいるように見える。
「ママのしゃしんは？」
「折角だから撮ろうかな」
　画面を自身に向けてシャッターを押した。
「みせてー」
「ほら、こんな感じで撮れたよ」
　智依子はしゃがんで楓と同じ視線になる。二人で画像を見ていると思いもしない提案が飛び出した。
「ママといっしょにとりたい」
「それもいいかも」
　智依子は楓を引き寄せた。スマートフォンを高々と挙げて頭部の物体が収まる最高の位置を模索する。
　その末に会心の一枚を手に入れた。一緒に画像を見ていた楓は小躍りするような状態で、いいね、と白い歯を見せて笑った。
「そうだ！」
　突然、楓が大きな声を出した。わくわくした顔で智依子を見上げる。
「なにか思い付いた？」
「おじいちゃんやおばあちゃんにもみせたい！」
「びっくりするんじゃないかな」
「びっくりしてよろこぶよ！」
　楓の笑顔に智依子は笑って手を差し出す。
　二人は手を繋いで祖父母のいる部屋にいった。そこで智依子と楓は逆に驚いた。
　楓は笑顔で駆け寄る。
「おじいちゃんやおばあちゃんの、あたまのうえにもいるよ！」
　祖父母は気にしていないようで湯呑の茶を味わうように飲んでいた。
　日常に割り込んだシュールな光景に智依子は笑った。楓は飛び跳ねて、しゃしん、と声を上げる。
　愛娘の要望とあって智依子は構図から考え、スマートフォンに二枚目を収めた。
　画像を見た楓は拍手を送る。
「かわいい！」
「そうね。とても可愛らしく撮れているわ」
　智依子は楓の姿を見ながら満面の笑みを浮かべた。

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