卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　卒業式当日～さまざまな別れ

　卒業式を卒業式は淡々と済ませた椎井莉鳥は、パレードも淡々と歩いていた。
　『あいつ』から一年遅れの卒業式。『あいつ』の姿はなく、かわりに声をかけてきてくれたのは所属していた陸上部の子たちだ。その中に１年生の中倉琉歌がいた。
　彼女はいつも通りの感じのよい笑みを浮かべていたが、莉鳥は思わず身構えた。なぜならこの前、彼女は不意打ちのように莉鳥の唇を奪ったのだ。

「……」

「おめでとうございます、先輩。いつでも遊びに来てくださいね」
　琉歌の唇から流れ出るのは、差し障りのない会話だけだ。
「……そう、ね」
　あのことに触れられるのかと思っていた莉鳥は警戒心の解けないまま、曖昧に頷く。
　彼女は何を考えているのだろう。『あいつ』以上に分からない娘だ……。

◇

（お父さん、お母さん、お姉ちゃん、それにおじいちゃんおばあちゃんも）

　紙吹雪の中、家族の姿を見つけた羽生碧南は、顔をほころばせ小さく手を振る。
　例によって校長の話はウンザリするほど長かった。卒業証書授与はあっという間で、校歌や蛍の光を歌う頃には少し涙ぐんでしまった。
　そんな碧南の涙腺が本格的に決壊したのは――
「鷹取先輩！」
　恋人の鷹取洋二が手を振っているのを見つけたときだ。
　碧南はこらえきれず洋二に向かって駆けだした。
「鷹取先輩、私、私……！」
「卒業おめでとう」
　洋二は飛びついて来た碧南を受け止める。

「……」
　涙ぐんで先輩の姿を見守っていた霧生愛は、ゾッとする気配を感じ振り返った。
　お祝いムードの人々の中でただひとり、嫉妬の炎をどす黒く立ち上らせていたのは浅見柚乃であった。
　碧南は洋二の胸の中で泣いている。
　唇を噛みそれを見ていた柚乃のまなこからも、悔し涙が零れ落ちる。
　それ以上見ていられなかったのか、柚乃は踵を返し立ち去った。
　言葉をなくした愛の視線には気づかずに。

◇

　朝鳥さゆるは歩いてゆく。しっかり前を向いて。
　高校生活に未練があるというほど熱心に通いはしなかったが、それも自分が選んだ道。悔いはない。
　完璧な所作で受け取った卒業証書を胸に抱き、さゆるは紙吹雪の中を進んでゆく。