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卒業 ～らっかみの願いを叶えて～
卒業式当日～第二ボタンじゃなくて
卒業式当日～第二ボタンじゃなくて
生徒会会計役員として、先生方と協力して式典を取り仕切る側だった愛猫 萌々子は、卒業式が無事終了したことにほっとしていた。こうして友人の笛吹 ぴりりとともに、中庭までの道に立ってパレードをする卒業生たちを拍手で見送っていると、どうしてもしんみりした気持ちになってくる。
「ぴりりちゃん、私たち１年後には卒業なんですね」
「その通りです！ 最上学年になるということはより一層気を引き締めなければ！」
「ぴりりちゃんは進路とか考えてる？」
「え。いえ、まだはっきりとは」
「私は木天蓼大学の文学部で英語を専攻しようと思っているんです。だから、この１年をどう過ごすか……」
よく考えなければ、と続けようとした萌々子は、口をあんぐりあけたまま固まってしまった。
（……あれ？ 今歩いて行ったのは先輩？ でも髪型が違う……だけどあれは本人のはず……）
「どうしました、萌々子さん？」
「万条先輩がいたような……でも、なんだか違っていたような」
「気になるなら、確かめてくればいいでしょう？」
萌々子の恋愛事情を知っているぴりりは、どんっと萌々子の背中を押す。
「はいっ！？ ぴりりちゃん、あの……ごめんなさいちょっと行ってきます！」
萌々子は、恋人の万条 幸次――と思われる人物の背中を追いかけた。
でもまだ確信が持てない。なぜなら――。
「あっ愛猫さん！」
彼が振り返る。
「先輩！ 間違いなかった！ ……ごっ、ご卒業おめでとうございます。その、髪型どうされたんですか？」
「ああこれ？」
幸次は気まずそうに、たはは、と短くなった前髪を摘まんだ。
「もうすぐ卒業式だしちょっと自分で切ってみるか、と思ったら、失敗しちゃって」
「失敗？」
前髪が短くなりすぎ後ろ髪も切ったらそっちも切り過ぎ……どうしようもなくなって近所にあった美容院に駆け込む羽目になったのだ、と幸次はその苦労を語る。
「で、結果がこのベリーショートなんだよねぇ」
（※こちらは髪を切る前の万条幸次氏のお姿です）
萌々子はあらためて、こざっぱりとした幸次の髪を見遣って、ああ……と吐息を漏らした。
「そうだったんですね。あまりに違っていたので驚きました」
「だよねぇ。俺もまだ慣れなくて。ヘアピンも使えなくなったのに持って来ちゃってさぁ」
幸次は苦笑いしてヘアピンケースを取り出してみせる。これまで、幸次のトレードマークと言えば、目が隠れるほど長い前髪を留めるヘアピンであった。ヘアピンは、幸次ののんびりさや人の好さの象徴のようにも思われていたのだ。
（そのヘアピンがもう必要ない……！？）
萌々子の頭上に電球が灯る。
「えっとですね。じゃあそのヘアピン、私がいただいてもいいでしょうか！」
意気込む萌々子に、幸次はきょとんとしてしまう。
「これでいいの？ 第二ボタンじゃなくて？」
「はい、それがいいです。第二ボタンじゃなくて」
萌々子の大真面目で紅潮した顔に圧され、幸次は頷いた。
「わかった。じゃあちょっと、おでこ、こっちに近づけて」
「はい？」
言われるがまま幸次に顔を近づけると、幸次は自分がしていたように、萌々子の前髪の左側にヘアピンを二本指してくれた。
「後はケースごとプレゼントだ」
「ありがとうございます！ 本当はずっと、先輩と同じ位置につけてみたかったんです……」
「そうだったの？ だったら怪我の功名だね。愛猫さんの願いを叶えてあげることができてよかった」
ふたりは照れくさそうに、もじもじと見つめ合う。
「あの、もう一つお願いがあります」
「なに、愛猫さん？」
「その『愛猫さん』っていう呼び方、変えてもらうことはできませんか？ 私のこと、愛猫さんじゃなくて『萌々子』って呼んでください」
「えっ、名前呼びしてほしいの？」
幸次は赤くなってあわあわと挙動不審になる。名前呼びはハードルが高い。照れてしまって会話にならないっていうか。
「えーっと、たまにしてたよねたまに」
「たまーに呼んでくれてましたけどこれからはいつもそうして欲しいんです。私も『幸次くん』って呼びますから、ね？ 幸次くん」
女の子は――やっぱり強い。
照れくさいとか恥ずかしいとかを乗り越えるとき、女の子の方がガッツがある。
それに応えずして何が男か。
（照れくさいからっていつまでも避けるのはやめよう）
幸次は、すぅ、はぁ、と深呼吸して、覚悟を決めた。
「――好きだよ萌々子、これからもよろしく」
「！ ――はい、幸次くん」
生徒会会計役員として、先生方と協力して式典を取り仕切る側だった愛猫 萌々子は、卒業式が無事終了したことにほっとしていた。こうして友人の笛吹 ぴりりとともに、中庭までの道に立ってパレードをする卒業生たちを拍手で見送っていると、どうしてもしんみりした気持ちになってくる。
「ぴりりちゃん、私たち１年後には卒業なんですね」
「その通りです！ 最上学年になるということはより一層気を引き締めなければ！」
「ぴりりちゃんは進路とか考えてる？」
「え。いえ、まだはっきりとは」
「私は木天蓼大学の文学部で英語を専攻しようと思っているんです。だから、この１年をどう過ごすか……」
よく考えなければ、と続けようとした萌々子は、口をあんぐりあけたまま固まってしまった。
「どうしました、萌々子さん？」
「万条先輩がいたような……でも、なんだか違っていたような」
「気になるなら、確かめてくればいいでしょう？」
萌々子の恋愛事情を知っているぴりりは、どんっと萌々子の背中を押す。
「はいっ！？ ぴりりちゃん、あの……ごめんなさいちょっと行ってきます！」
萌々子は、恋人の万条 幸次――と思われる人物の背中を追いかけた。
でもまだ確信が持てない。なぜなら――。
「あっ愛猫さん！」
彼が振り返る。
「先輩！ 間違いなかった！ ……ごっ、ご卒業おめでとうございます。その、髪型どうされたんですか？」
「ああこれ？」
幸次は気まずそうに、たはは、と短くなった前髪を摘まんだ。
「もうすぐ卒業式だしちょっと自分で切ってみるか、と思ったら、失敗しちゃって」
「失敗？」
前髪が短くなりすぎ後ろ髪も切ったらそっちも切り過ぎ……どうしようもなくなって近所にあった美容院に駆け込む羽目になったのだ、と幸次はその苦労を語る。
「で、結果がこのベリーショートなんだよねぇ」
萌々子はあらためて、こざっぱりとした幸次の髪を見遣って、ああ……と吐息を漏らした。
「そうだったんですね。あまりに違っていたので驚きました」
「だよねぇ。俺もまだ慣れなくて。ヘアピンも使えなくなったのに持って来ちゃってさぁ」
幸次は苦笑いしてヘアピンケースを取り出してみせる。これまで、幸次のトレードマークと言えば、目が隠れるほど長い前髪を留めるヘアピンであった。ヘアピンは、幸次ののんびりさや人の好さの象徴のようにも思われていたのだ。
（そのヘアピンがもう必要ない……！？）
萌々子の頭上に電球が灯る。
「えっとですね。じゃあそのヘアピン、私がいただいてもいいでしょうか！」
意気込む萌々子に、幸次はきょとんとしてしまう。
「これでいいの？ 第二ボタンじゃなくて？」
「はい、それがいいです。第二ボタンじゃなくて」
萌々子の大真面目で紅潮した顔に圧され、幸次は頷いた。
「わかった。じゃあちょっと、おでこ、こっちに近づけて」
「はい？」
言われるがまま幸次に顔を近づけると、幸次は自分がしていたように、萌々子の前髪の左側にヘアピンを二本指してくれた。
「後はケースごとプレゼントだ」
「ありがとうございます！ 本当はずっと、先輩と同じ位置につけてみたかったんです……」
「そうだったの？ だったら怪我の功名だね。愛猫さんの願いを叶えてあげることができてよかった」
ふたりは照れくさそうに、もじもじと見つめ合う。
「あの、もう一つお願いがあります」
「なに、愛猫さん？」
「その『愛猫さん』っていう呼び方、変えてもらうことはできませんか？ 私のこと、愛猫さんじゃなくて『萌々子』って呼んでください」
「えっ、名前呼びしてほしいの？」
幸次は赤くなってあわあわと挙動不審になる。名前呼びはハードルが高い。照れてしまって会話にならないっていうか。
「えーっと、たまにしてたよねたまに」
「たまーに呼んでくれてましたけどこれからはいつもそうして欲しいんです。私も『幸次くん』って呼びますから、ね？ 幸次くん」
女の子は――やっぱり強い。
照れくさいとか恥ずかしいとかを乗り越えるとき、女の子の方がガッツがある。
それに応えずして何が男か。
（照れくさいからっていつまでも避けるのはやめよう）
幸次は、すぅ、はぁ、と深呼吸して、覚悟を決めた。
「――好きだよ萌々子、これからもよろしく」
「！ ――はい、幸次くん」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2024年06月09日
- 参加申し込みの期限
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- 2024年06月16日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2024年06月16日 11時00分
